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 神経幹細胞は分裂して神経細胞(ニューロン)を生み出す細胞のことで、神経発生や神経再生機構を考える上で欠かせない細胞です。特にこれまで再生することがないとされてきたほ乳類成体の中枢神経系から神経幹細胞が発見されて以来、神経幹細胞の分野は基礎研究に留まらず、再生医療の分野でも注目されている重要な研究テーマとなっています。
この神経幹細胞の研究ですが、そもそも神経幹細胞はどのような性質の細胞か、が問題となっています。神経幹細胞の遺伝子発現パターンが明らかになってきており、この細胞はグリア細胞と共通の遺伝子のいくつかを発現していることから、グリア細胞の一種と考えられています。ただ脊椎動物にはグリア細胞にも多くの種類があり、どのグリア細胞と近いのか(または同一なのか)、特に放射状グリア、上衣細胞、アストロサイト、またはそれらをあわせたような性質を有しているのかなどが議論されている状態です。 また、神経幹細胞がどのようにニューロンへと分化転換するのかが分かりつつありますが、まだそのメカニズムの解明は十分ではありません。特に幹細胞からどのようにニューロンが機能的なニューロンへと分化するのか、その分化を決定する転写因子はどれか、については不明な点が多く残されています。

 これらの問題の少なくとも一部には、脊椎動物が極めて多数の細胞から成る複雑な神経系を有していることが背景としてあります。そのために細胞一つが神経幹細胞なのかどうか、またどのように分裂しどのように遺伝子を発現させて分化していくのか、それを追跡していくのが難しいということです。 私たちの研究グループは、海産無脊椎の脊索動物ホヤの一種カタユウレイボヤを用いて神経系の発生・機能の解明に取り組んでいます。ホヤの解説は我々のHPの他のページに書きましたが、脊椎動物に最も近い無脊椎動物の一群であり、幼生の時期には典型的な「オタマジャクシ型」の形態を取り、脊椎動物と同じボディプランを有しています。中枢神経系に着目しますと、背側に中空の神経管を有している点、前方がふくらみ脳を形成している点など、脊椎動物と基本構造は一致しています。そのカタユウレイボヤの中枢神経系は驚くほど単純であることが分かっています。具体的には、細胞数が極めて少なく数えられる程度の細胞数しかないことが分かっています。より具体的には、ニューロンが約100個、グリア細胞が約250個であることが判明しています。この単純さから、カタユウレイボヤの中枢神経系は、神経系の発生メカニズムと機能を細胞1つ1つのレベルで解明するよい研究材料になっています。

 そのカタユウレイボヤ幼生の中枢神経系は、幼生から成体へとホヤが変態する際に大きく変化することを我々は突き止めました。具体的には、幼生の中枢神経系の基本構造がそのまま成体の中枢神経系へと受け継がれる一方で、幼生のニューロンの大多数が死滅することが分かりました。では、成体のニューロンはいったいどこから来るのでしょうか。我々は、幼生のグリア細胞の一部が変態過程で成体のニューロンを生み出していることを突き止めました。つまり、ホヤ幼生のグリア細胞が上記の「神経幹細胞」のように振る舞っていることになります。このホヤ変態期に認められるグリア細胞―ニューロン分化転換をモデルにして、グリア細胞がどのような分子メカニズムでホヤ成体ニューロンを構築するのか、特にコリン作動性ニューロンなどの機能ニューロンを生み出す機構を明らかにすることが本研究の目的です。

ホヤで研究するメリット:

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