2015.10.2 精子の運動制御に必須の酵素を発見~男性用避妊薬の開発に応用可能
 筑波大学下田臨海実験センター稲葉一男教授、柴小菊助教は、大阪大学微生物病研究所の宮田治彦助教、伊川正人教授らの研究グループと共同で、精巣で発現する脱リン酸化酵素である精子カルシニューリン(PPP3CC/PPP3R2)が精子の正常な運動制御と受精能力に必須であることを明らかにしました。精巣特異的に発現する精子カルシニューリン遺伝子を破壊した雄マウスの精子は、尻尾の中片部だけが屈曲しなくなることで、卵への受精に必要な正常な運動ができなくなり、雄マウスは不妊になりました。カルシニューリンは全身に存在する脱リン酸化酵素として広く知られており、ヒトにも精子カルシニューリンが存在し、脱リン酸化酵素活性を有することがわかりました。精子カルシニューリンを特異的に阻害できれば、即効性があり可逆的な男性避妊薬の開発に繋がることが期待されます。また、精子の運動機能に関する今回の新知見から、不妊症の原因究明や診断に新たな視点が加わったことになります。下田臨海実験センターにある運動解析システムを利用した共同研究による成果です。本研究成果は2015年10月1日に米国科学誌「Science」のオンライン速報版として公表されました。
http://www.sciencemag.org/content/early/2015/09/30/science.aad0836.abstract

2015.6.10 相模湾とその周辺海域で約50種の新種の動物を発見
―全国の研究者が参加するJAMBIO沿岸生物合同調査の成果―

 筑波大学下田臨海実験センターの中野裕昭准教授ほか、全国10研究機関の研究者18名による研究グループは、相模湾とその周辺海域から、新種の海産動物約50種の採取に成功しました。
 筑波大学下田臨海実験センターと東京大学海洋基礎生物学研究推進センターの連携による組織「マリンバイオ共同推進機構JAMBIO」は、日本の海洋生物学分野の共同利用・共同研究を推進することにより、全国的に大きな広がりを見せる研究者コミュニティの学際的共同研究を加速させることを目的としています。JAMBIOでは主催プロジェクトの一つとして、JAMBIO沿岸生物合同調査を筑波大学下田臨海実験センター、及び東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所において行ってきました。相模湾とその周辺海域の沿岸域に生息している大きさ数cmの動物種を調べることが本調査の目的です。調査は全国の研究者の協力を得て、これまで6回開催した調査には全国15の研究機関からのべ109名が参加しています。調査に関しては下記ページも参照してください。
http://www.shimoda.tsukuba.ac.jp/~jambio/joint-research.html  
 6回の調査で得られた動物にはまだ種の同定が終わっていないサンプルも多数残っていますが、これまでに少なくとも18門250種以上の動物が見つかっており、それには約50種の新種が含まれています。また、多様性や動物分類学だけではなく、系統地理学、生態学、環境学などにとっても重要な発見がなされています。今後も調査を継続することで、日本の生物相の豊かさが明らかになるとともに、日本の海洋生物学者のネットワークが構築されることが期待されます。
 本研究は、Elsevierグループが発行する電子ジャーナル「Regional Studies in Marine Science」に、 2015年5月20日付けで掲載されました。 http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352485515000158

2014.9.23 鳥類の顕微授精による孵化に成功-トキなどの絶滅種復活に応用可能
静岡大学の笹浪知宏准教授、水島秀成博士らの研究グループは、筑波大学下田臨海実験センター稲葉一男教授、柴小菊助教、信州大学、ソウル大学の研究グループと共同で、鳥類ウズラの卵子に顕微授精を施し、体外で培養することによりヒナの孵化に成功しました。顕微授精によるヒナの孵化は世界初であり、本研究が発展することにより、優秀な形質を持ったクローン家禽の作出やトキなどの絶滅種の復元に応用できることが期待されます。本研究成果は2014年9月23日に英国科学雑誌「Development」のオンライン版として公表されました。
http://dev.biologists.org/content/141/19/3799.long

2014.6.19 奇妙な生きもの「平板動物」を日本各地で確認
 筑波大学下田臨海実験センターの中野裕昭助教は、平板動物を日本各地から採集することに成功しました。  平板動物はわずか7種類の細胞からなる、直径1mm程の海産動物です。消化管、呼吸器系、排出系の器官や組織はおろか、神経細胞も筋肉細胞もないとされ、自由生活をする動物としては世界でいちばん単純な構造をもつ動物といえます。このことから古くから進化学研究者の関心を集めてきましたが、有性生殖過程や成熟精子なども未だに確認されておらず、謎に包まれた動物です。  野生からの採集は困難で、1883年の初記載も水族館の水槽から発見された個体でした。世界で2例目の野生環境からの採集は1977年に日本から報告されましたが、その後、国内での平板動物の研究はあまり活発ではありませんでした。 本研究では、はじめに筑波大学下田臨海実験センター(静岡県下田市)で安定した採集方法を確立しました。その後、日本各地での平板動物の生息を調べるために、以下5カ所の臨海実験所に協力を依頼し、各地での採集を試みました。

その結果、調査を行った以上5カ所、下田も含めれば6カ所すべてにおいて、平板動物の採集に成功しました。2カ所からは冬期にも採集に成功しており、一年中日本各地に平板動物が生息していることが示唆されました。また、熱帯から亜熱帯性と考えられてきた平板動物が、北太平洋をはじめ世界中の温帯や亜寒帯の海域にもいることが推測され、これらの集団を研究することで、発生過程など未だに多く残る平板動物の謎の解明が進むことが期待されます。本研究成果は、電子ジャーナルScientific Reports(ネイチャー出版グループ)に、 2014年6月19日付けで掲載されました。
http://www.nature.com/srep/2014/140619/srep05356/full/srep05356.html

2014.5.23 卵における遺伝子の働きを調べる新しい手法「マスク法」を開発
 筑波大学下田臨海実験センターの飯塚貴子日本学術振興会特別研究員、笹倉靖徳教授らは、沖縄科学技術大学院大学の佐藤矩行教授、濱田麻友子博士らと共同で、ホヤの卵を用いて、狙った遺伝子の機能を特異的に抑制する新しい研究手法を開発しました。一般に、卵内では多くの遺伝子が働き、受精後に生じる発生過程で体をどのように構築するかを指定しています。この卵内での遺伝子の働きを調べることが、多細胞生物の体作りの仕組みを解明する為に必須です。しかしながら卵は非常に複雑な細胞であり、また他の細胞と比較すると形成されるのが個体の成熟後という大変遅い時期であることから、卵内での遺伝子機能の解明は実験技術の発展した現在であっても非常に困難となっています。ホヤは100年以上もの前から、卵内における遺伝子の機能が解析されてきた歴史があります。本研究では、そのホヤを用いて、これまで困難であった卵内で働いている遺伝子の機能を選択的に抑制することに成功しました。マスク法と名付けた本手法により、「卵内で遺伝子がどのように機能し、多細胞生物の体が構築されるのか」という発生の基本メカニズムの解明につながると期待されます。本研究成果はScientific Reports誌に掲載されました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24854849

2014.4.22 後ろ向きに泳ぐ巻貝の精子
マガキガイ画像 筑波大学下田臨海実験センター柴小菊助教、柴田大輔研究員、稲葉一男教授は海産の巻貝であるマガキガイを用いて精子が後進運動する過程とそのメカニズム、生物学的意義の一端を明らかにしました。マガキガイは浅瀬の砂地に生息する巻貝の一種で下田近辺でも普通に見られる貝です。雌雄異体で体内受精を行います。オスは核があり卵と受精する正型精子と核を持たず受精において補助的な役割を行う異型精子の二種類の精子を有します。マガキガイ正型精子の運動を詳細に解析することにより、精子の遊泳方向や鞭毛波形が運動時間やカルシウムシグナルに応じて変化することがわかりました。興味深いことにマガキガイの正型精子は二つの後方遊泳パターンを持ちます。これらの後方遊泳は運動開始直後の精子束からの解離とメス体内における貯精囊からの解離にそれぞれ役割を果たしているものと思われます。体内受精を行う精子のほとんどが受精を効率的に行うために運動抑制や活性化などの運動変化を示します。本研究は体内受精のメカニズムや鞭毛運動制御の解明に役立つものと考えられます。また異型精子の役割、形成機構についても現在研究を進めています。これらの研究成果はJournal of Experimental Biology誌 217巻 986-996頁 (2014)に掲載されました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24311809

2013.5.28 ヤリイカ小型オス精子はCO2に対して走化性を示す
 島根大学隠岐臨海実験所 広橋教貴准教授、ドイツ・Center for Advanced European Studies and Research (CAESAR), U. Benjamin Kaupp博士ら、お茶の水女子大学馬場昭次名誉教授らの研究グループは、筑波大学下田臨海実験センター稲葉一男教授、柴小菊助教と共同で、ヤリイカ小型オス精子がCO2に 対して走化性を示すことを明らかにしました。古くからヤリイカには体格が異なる小型オス・大型オスが存在し、それぞれの体格に応じた生殖様式が存在することが知られていました。またこれまでの研究からそれぞれ生殖様式に応じて、形態的に異なる精子を持つことが分かっていました。今回、広橋准教授らは小型オス精子が自己集合することを発見し、精子が呼吸のために放出するCO2が集合の原因であることを突き止めました。また、CO2は精子膜上の炭酸脱水酵素(Carbonic anhydrase)によって分解され、そのときに産生された水素イオンが、カルシウムイオン依存的な精子の遊泳変化に関与していることを明らかにしました。精子自己集合はメ スの体表で精子を受け渡す小型オスの生殖様式に有利に働くものと考えられます。今回の発見は生物が示す多様な生殖様式の進化を知るための重要な手がかりと なります。この研究成果はCurrent Biology誌に掲載されました。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982213003424

2013.5.14 ムラサキイガイから新規レクチン構造ファミリー "MytiLec"が発見された
横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科教授大関泰裕の糖鎖生物学研究グループと理化学研究所バイオ解析チームヘッド堂前直氏(埼玉大学連携准教授)は、JAMBIO共同利用・共同研究 (Proposal ID: 24-03)を通じて二枚貝ムラサキイガイからMytiLecレクチン(糖鎖結合性タンパク質)を単離し従来のタンパク質に見られない全く新規な一次構造を決定した(Uniprot ID: B3EWR1)。本レクチンはN-末端がアセチル化された149個のアミノ酸からなる単一ポリペプチド鎖で、Cysを含まず、1分子のTrpを持ち、50アミノ酸の互いに似たドメインが3回反復した配列を持っていた。ドメイン内の塩基性および酸性アミノ酸は、それぞれドメイン全体とC-末端側に分極する特徴的な配列を有した。糖鎖結合プロファイル解析から、O157菌毒素のヒトへの標的であるグロボトリオース(Gb3)スフィンゴ糖脂質糖鎖への結合が判明し、Gb3を発現するリンパ腫細胞に対してアポトーシスを誘導した。ムラサキイガイのESTデータベースMytiBase (http://mussel.cribi.unipd.it) からMytiLecに相当するcDNA配列(GenBank ID: FL492661.1)の発見、エゾイガイから類似構造を持つレクチン(GenBank ID: JQ314213.1)の存在が判明し、現在、糖鎖とレクチンとの結合を原子レベルで解明するための結晶解析が進められている。本成果は長崎国際大学薬学部助教藤井佑樹、同准教授小川由起子、東北薬科大学分子生体膜研究所助教菅原栄紀、ラジャヒ大学助教イムティアジ・ハサン(文科省国費留学生・横浜市立大学大学院博士課程)、横浜市立大学大学院生小出康裕、チッタゴン大学准教授S M アベ・カウサル (元文科省国費留学生・JSPS外国人博士特別研究員(横浜市立大学))および藤田保健衛生大学教授松井太衛氏らとの共同研究としてThe Journal of Biological Chemistry 誌(2012年12月28日付) に掲載された。 http://www.jbc.org/content/287/53/44772.abstract (公表論文) http://www.uniprot.org/uniprot/B3EWR1#ref1 (UniProt データベース; MytiLec一次構造)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nucest/223022238 (GenBank; MytiLec cDNA 配列) http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/JQ314213.1 (GenBank: Crenomytilus grayanus GalNAc/Gal-specific lectin cDNA配列)




2013.2.26 珍渦虫の発生過程を世界で初めて解明
珍渦虫 筑波大学下田臨海実験センターの中野裕昭助教の研究グループは、スウェーデン イエテボリ大学などとの共同研究により、世界で初めて、珍渦虫の発生過程を観察することに成功しました。
 珍渦虫は、脳などの集中神経系、肛門等を欠いた非常に単純な体を持つ海生動物です。その単純な構造は、多くの動物の共通祖先の特徴を残している可能性があるとも考えられています。また、珍渦虫の分類学的な位置は、かつて考えられていたよりも脊椎動物に近い可能性があり、その構造を研究することは、ヒトも含めて、現在生きている動物の進化過程の解明につながると期待されています。しかし、最初に採集されてから130年以上経つにもかかわらず、卵からどのように発生・成長して成体になるかはこれまで謎のままでした。
 本研究では、世界で初めて珍渦虫の発生過程を観察することに成功し、その幼生は、消化管などすら持たない非常に単純な構造をしていることを明らかにしました。また、わずか5日程で成体とほぼ同じ構造を持つようになることも判明しました。このような珍渦虫の発生過程は、原始的とされているクラゲなどの動物の発生過程と似ていることから、動物全体の共通祖先の幼生もこのような単純な構造だったことが示唆されます。
また、現在生きている全動物の中での珍渦虫の位置は、ヒトを含む脊索動物門に比較的近縁な可能性があることから、ヒトも、単純な発生過程を持っていた遠い祖先から進化したという仮説が有望となります。本研究成果は、「Nature Communications」(2013年2月26日付け)に掲載されました。
http://www.nature.com/ncomms/journal/v4/n2/full/ncomms2556.html
http://www.tsukuba.ac.jp/public/press/130227.pdf

2012.12.18 精子走化性を司るタンパク質カラクシンの役割を解明
 筑波大学下田臨海実験センターの元大学院生・研究員の水野克俊さん、柴小菊助教、稲葉一男教授は、情報通信研究機構、東京大学との共同研究で精子走化性を司るタンパク質カラクシンの役割を解明しました。カラクシンは、以前に稲葉教授の研究グループによってカタユウレイボヤ精子から発見されたカルシウム結合性のタンパク質でヒトを含む後生動物に広く存在します。カラクシンは精子鞭毛運動の原動力であるモータータンパク質ダイニンに直接結合することがわかっていましたが、その調節メカニズムはこれまで明らかではありませんでした。今回、カラクシンの機能を明らかにするためにカラクシンを阻害したときの精子走化性時の波形解析、カルシウムイメージング、除膜精子モデル実験、微小管滑り活性実験を行い、カラクシンがカルシウムと結合することでダイニンのモーター活性を直接制御し、精子走化性における遊泳方向変換を可能にしていることを明らかにしました。カラクシンはホヤ精子鞭毛だけではなくほ乳類精子や繊毛にも存在するタンパク質です。今回の研究成果は精子走化性のメカニズムの解明につながるとともに、真核生物の鞭毛・繊毛制御機構の解明にも大きく役立つものと考えています。 この研究成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS誌)に掲載されました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23169663
カタユウレイボヤ精子が示す方向変換のための鞭毛変形変化
カタユウレイボヤ精子が示す方向変換のための鞭毛波形変化

2012.11.29 性転換クローンドジョウの二倍性精子の運動不全の解明
 北海道大学大学院水産科学研究院の大学院生趙岩と荒井克俊教授らのグループはクローンドジョウに由来する精子の運動不全の原因を解明した。ドジョウには両性生殖する通常の二倍体に加えて三倍体、四倍体の存在が知られている。さらに、一部のドジョウでは非還元卵を産出し、発生の開始に受精は必要ではあるが、個体発生においては精子の遺伝的な関与がなく母親と遺伝的に同一の二倍体のクローン集団を形成する。通常ではこれらのクローン個体はメスだが、ドジョウではホルモン処理や温度処理によってメスからオスへの性転換が可能である。これまで、魚類では遺伝的な性がXX-XYのオスヘテロ型の種ではXXのメスを性転換し、X型の精子しか生産しない偽オスを作製することにより、偽オスと通常メスとの交配によって全メス集団の誘起に成功している。ドジョウの場合も同様に、通常ドジョウを性転換したXXオスは半数性のX精子を生産する。また、四倍体は二倍性の精子を産出する。一方、クローンドジョウの偽オスは二倍性の精子を産出するが、この精子では正常な運動能力をもたない。本研究によって、クローン由来の二倍性精子は四倍体由来の二倍性精子と同様に、半数性精子と比べて頭部サイズ、鞭毛長、ミトコンドリア量の増大が起こっているものの、ATP含有量は四倍体と同程度までの増加は認められず、このことが運動能力の低下に関与していることが示唆された。この研究成果は、一部JAMBIO共同研究(No.22-75、No.23-11)により行われ、Journal of Applied Ichthyologyの12月号に掲載された。
Zhao et al., J. Appl. Ichthyol. 28 (2012), 1006-1012
doi: 10.1111/jai.12069
雌性発生する二倍体の遺伝的に雌のクローンドジョウにホルモン処理を施して性転換を誘起した雄個体。ドジョウの雄に特徴的な顕著な胸鰭の発達が認められる。

2012.6.25 ウニ卵レクチンファミリーSALはバーキットリンパ腫細胞の糖脂質と結合し、
多剤耐性遺伝子MRP1の発現を抑制した
-海洋生物糖鎖関連分子が低侵襲治療研究に役立つ可能性-

 横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科客員研究員藤井佑樹博士(現長崎国際大学薬学部助教)と東北薬科大学分子生体膜研究所助教菅原栄紀博士は、横浜市立大学大学院教授大関泰裕らと共に、ムラサキウニ未受精卵に発見されたSUEL型レクチンドメインを持つナマズ卵レクチン(糖鎖結合性タンパク質) SALが、バーキットリンパ腫Raji細胞表面のスフィンゴ糖脂質Gb3糖鎖(Galα1-4Galβ1-4Glc-Cer)と結合し、レクチン添加後24時間後より、化学療法剤の排出に働く多剤耐性トランスポーターチャンネルMRP1をコードしたmRNAの発現が低下していくことを見出した。これにより、レクチンで処理されたRaji細胞は、通常の1/10量のビンクリスチンの投与で細胞死を起こした。本成果は、海洋動物レクチンのファミリーが低侵襲治療の研究に役立つ貴重な事例として、米国アカデミー会員箱守仙一郎博士(パシフィックノースウェスト糖尿病研究所 米国ワシントン州シアトル市)、東北薬科大学学長高柳元明博士、同大教授仁田一雄分子生体膜研究所長、同准教授細野雅祐博士らとともにThe Protein Journal誌およびカナダの医学情報発信WebサイトGlobal Medical Discoveryに掲載された。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22083453
http://globalmedicaldiscovery.com/?s=Fujii
http://en.wikipedia.org/wiki/Galactose_binding_lectin_domain


2012.3.13 受精における自家不和合性メカニズムの解明
 名古屋大学菅島臨海実験所澤田均教授、大学院生齋藤貴子さん、山田力志助教は、筑波大学下田臨海実験センター稲葉一男教授、柴小菊助教と共同で、カタユウレイボヤの受精における自家不和合性メカニズムを解明しました。カタユウレイボヤは雌雄同体で自己の卵と精子は受精することができません。精子鞭毛運動の高速カメラ撮影とカルシウムイメージングにより、ホヤ精子は自己の卵に結合すると細胞内カルシウム濃度が上昇し鞭毛運動の停止または卵からの解離が起こることがわかりました。以前に澤田教授らの研究グループが発見したホヤ自家不和合性を司る遺伝子の雄側因子にはカルシウムチャネルドメインが存在しており、今回初めてその機能に迫ることに成功しました。ホヤと同様の自家不和合性因子の分子機構、カルシウムシグナルの関与は高等植物においても知られており、今回の発見により、今後、動植物に共通する受精メカニズムの解明および生殖・繁殖技術への応用が期待されます。この研究成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS誌)に掲載されました。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22357759

2011.2.10 人間を含む新口動物の新しい仲間の報告
XenoBohus筑波大学下田臨海実験センターの中野裕昭助教は、University College LondonのMaximilian Telford教授らと共同で、これまで系統学的位置が不明確であった海産無脊椎動物、珍渦虫と無腸類が互いに近縁な新口動物であることを新たに発見した。約30ある動物門の中で、新口動物には人間を含めた脊索動物門、棘皮動物門、半索動物門しかおらず、珍渦虫と無腸類からなる「Xenacoelomorpha」は4番目の門となる。今後は無腸類や珍渦虫の研究が、我々人間を含めた新口動物進化の解明につながることが期待される。この成果は2月10日付けの英科学誌Natureに掲載された

2011.1.3 筑波大学下田臨海実験センターの堀江健生研究員(日本学術振興会特別研究員PD)と笹倉靖徳准教授の研究グループは、沖縄科学技術研究基盤整備機構の佐藤矩行先生および甲南大学の日下部岳広先生と共同で、ホヤの変態時に幼生の中枢神経系が失われるという通説を覆し、幼生の中枢神経系のうち脳胞と頸部、内臓神経節は変態後も残って成体の中枢神経系を構築すること、幼生のニューロンの多くは通説通り消失すること、幼生のグリア細胞の一種である上衣細胞の一部が変態中に神経幹細胞のように振る舞い、成体のニューロンを作り出すことを突き止めました。この成果はNature誌に掲載されました。

2010.12.19 ウミシダからユニークな糖鎖結合プロファイルを持つ新規レクチンを発見
横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科の大関泰裕教授と大学院生松本亮、JSPS外国人招へい研究者SM Abe カウサルらは、マイアミ大学博士研究員柴田朋子博士、東京大学大学院理学系研究科付属臨海実験所(赤坂甲治所長)採集室、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校(佐藤春夫校長)と共同し、文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)を通じて、棘皮動物有柄亜門ウミユリ綱に属するニッポンウミシダ(Oxycomanthus japonicus)から、世界で初めてレクチン(糖鎖結合性タンパク質)の単離に成功した。本レクチンは、タイプ2型N-アセチルラクトサミン構造と結合する非常に特異性の高い新規分子であることがフロンタルアフィニティークロマトグラフィーを用いたグライコミクス解析により証明され、新たな細胞増殖制御研究や診断技術開発に利用が可能になると期待された。この成果は比較生化学および生理学雑誌に報告された。

Matsumoto et al, Comparative Biochemistry and Physiology B 158, 266-273 (2011) doi:10.1016/j.cbpb.2010.12.004
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21176791

2010.8.23 最古の脊椎動物である"ヌタウナギ"に生殖腺刺激ホルモンがあることを証明
Japanese hagfish (Paramyxine atami) クロヌタウナギ 新潟大学理学部附属臨海実験所の野崎眞澄教授らの研究グループは,最古の脊椎動物といわれるヌタウナギの下垂体から生殖腺刺激ホルモン(GTH)のα鎖とβ鎖の遺伝子を同定し,下垂体内のGTHの遺伝子発現量やタンパク質量が生殖腺の機能状況とよく一致していること,さらにヌタウナギの下垂体からGTHを化学的に単離し,生殖腺に投与することにより,生殖腺から性ホルモンが放出されることを証明した。本研究により、脊椎動物の初期進化の段階で,視床下部‐下垂体‐生殖腺軸が確立されたということを世界ではじめて明らかにした。この成果は、8月23日付けの米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。

 

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