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ホヤの母性因子の研究

ホヤの卵は典型的なモザイク卵です。モザイク卵というのは、卵のそれぞれの領域が将来の体のどの部分になるかがあらかじめ決められている卵のことを言います。例えばホヤの2細胞期の卵を半分に切ると、それぞれの断片からは体の右半分と左半分が作られます。ウニの卵で同じことをすると、それぞれの断片は完全なプルテウス幼生に発生するのとちょうど対照的です(ウニのような卵は調節卵と呼ばれます)。ホヤのモザイク卵がどのような仕組みで作られるのか、そのメカニズムを研究しています。

モザイク卵は、卵の各領域に、組織や器官の分化を支配する「分化決定因子」が局在することによりモザイク性を獲得しているのだと考えられています。ホヤの卵においても、筋肉、内胚葉、表皮細胞の分化決定因子が局在していることが示されています。それらの分化決定因子の分子的実体のほとんどは分かっていません。

分化決定因子の局在と呼応するように、ホヤの卵および初期胚の後極には、クリアーな局在を示す母性 mRNA が存在することが示されています。 postplasmic/PEM RNA 群と名付けられたこれらの mRNA には、筋肉分化決定因子である macho-1 mRNA が含まれるなど、非常に重要な役割を担っていることが分かりつつありますが、それらの機能の多くは以前謎に包まれています。これらの postplasmic/PEM RNA は、未受精卵では卵の表層に存在していますが、卵が受精すると、最初卵の植物極に輸送され、ついで卵の後極に輸送されます。

ホヤの卵や初期胚内で局在している母性mRNA。
藍色に染まっているところがmRNAの存在するところ。偏って存在することが分かる。

分化決定因子や postplasmic/PEM RNA の分子的実体や機能だけでなく、これらの因子がどのような仕組みで卵の一部に留まっているのか、その局在メカニズムも興味の持たれるところです。ホヤでは postplasmic/PEM RNA の局在機構の研究が進められています。例えば、 postplasmic/PEM RNA には、それ自身が局在する mRNA であることを示す目印である局在配列が、その 3'UTR に存在することが示されています。また、postplasmic/PEM RNA は卵の表層に存在するアクチン繊維と微小管に依存して受精後に後極まで運ばれること、表層に存在する小胞体が局在に関わっているであろうことが示されています。このようなことが分かりつつありますが、未だに局在の仕組みの多くは謎が残されています。例えば、細胞骨格や小胞体と postplasmic/PEM RNA はどのように結合するのか、 postplasmic/PEM RNA は卵形成時のどのタイミングで、どの細胞で合成され、どのような仕組みで未受精卵の表層に運ばれるのか、などです。

 

トランスポゾン技術を使い、GFP遺伝子を強制的に発現させたホヤの卵!

以上のようなホヤ卵の謎にアプローチするために、トランスポゾン技術が非常に役に立ちます。母性因子を研究するためには、卵の中の遺伝子発現を操作し、ある遺伝子を大量に作らせたりすることが有効ですが、ホヤでひろく使われている顕微注入などの技術では、そのような卵の遺伝子発現の操作はできあがった成熟卵に限られます。つまり卵がまだ分化過程にある「未熟な」時には、遺伝子を操作したりすることは通常の技術ではできないのです。これでは、卵が作られている時期の遺伝子機能を調べること、つまり卵形性の仕組みを解明することはできないことになります。我々のトランスポゾン技術では、そのような技術的な困難さを克服することが可能です。トランスポゾンにより作られたトランスジェニックラインでは、卵形成時期に望みの遺伝子を導入し、発現させることが可能です。このことを利用して、卵形成時に様々な遺伝子を発現させてその機能を調べることにより、ホヤのモザイク卵がどのように作られるのか、それを解明することができます。また、トランスポゾンを用いて卵形性に異常を生じる「突然変異体」を作製し、その原因遺伝子を特定することで、卵形性に関わる遺伝子を同定することができます。このように、トランスポゾンを利用した技術は今までできなかったアプローチを可能にします。私たちの研究グループでは、他の研究グループで行われていない独自の技術を用いつつ、ホヤの母性因子の問題に取り組んでいます。

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