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2010年

5月14日

発生初期のキラルな割球配置が巻貝胚の左右非対称性経路を決定する。

Nature. 2009 Dec 10;462(7274):790-4.
ほとんどの動物には左右の非対称性が存在する。その左右非対称を決定するメカニズムは脊椎動物、無脊椎動物において提案されているが、特に初期発生において、まだ未知な部分が多い。 巻貝であるヨーロッパモノアラガイとソトモノアラガイはその種の中で右巻きと左巻きが存在し、それがひとつのゲノムローカスにより決定されていることが知られている。しかしながらそのメカニズムは未知である。 我々は第三卵割時に機械的操作によってらせん卵割の方向を逆転させる実験により、第三卵割の巻き方向によってその後の左右非対称性が決定されること、また、Nodal経路の上流として機能することを見出した。また、巻き方向を決定する遺伝子と第三卵割における細胞骨格ダイナミクスが遺伝的に強くリンクしていることを発見した。

グリシン受容体は無脊椎動物尾索類の遊泳運動の組織化に関与している。

BMC Neurosci. 2010 Jan 19;11:6.
脊椎動物の歩行や遊泳運動などのリズミカルな繰り返し運動は、脊髄に存在する中枢パターン発生器( CPG )と呼ばれる神経回路によって生み出されている。このような繰り返し運動を生みだすには左右に交差して軸索を伸ばし、自身が存在する側とは反対側の興奮性ニューロンの活動を抑えるグリシン作動性ニューロンが重要な役割をしていることが知られている。
ホヤ幼生は尾部の左右の筋肉の収縮と弛緩を繰り返し遊泳運動を行う。ニューロン特異的なマーカーを用いた形態学的な記載から、尾部の繰り返し運動は運動神経節に存在するモーターニューロンと尾部前端部に存在する GABA/ グリシン作動性ニューロンにより生み出されていることが示唆されていたが、これを証明する直接的な証拠は示されていなかった。
この論文ではグリシンによるシナプス伝達に必須であるグリシン受容体に注目し、阻害剤やモルフォリノによりグリシン受容体の機能を阻害するとリズミカルな遊泳運動が阻害されること、グリシン受容体はモーターニューロンや筋肉で発現していること、グリシン抗体陽性のグリシン作動ニューロンが尾部の神経索に存在していることを示し、グリシンによるシナプス伝達がホヤ幼生のリズミカルな遊泳運動に必須の役割をしていることを明らかにしている。

5月28日

Winglessモルフォゲンによる翅の新規の色彩パターン形成

Nature. 2010 Apr 22;464(7292):1143-8.Apr 22
多くの動物の体にみられる複雑で幾何学的な色彩パターンは、行動や生態に重要な役割を担っている。ある種のパターン形成はかなりの理論的研究の対象となっているものの、色彩パターンの形成や進化を引き起こす実際の機構についてはほとんど分かっていない、本研究では、ショウジョウバエの一種Drosophila guttiferaの翅にみられる複雑な斑紋パターン形成と進化について調べた。翅の斑紋は、Winglessモルフォゲンによって誘導されることが分かった。このモルフォゲンは、翅構造の発生を制御する既存の位置情報によって指定される、多数の別個の部位で発現する。さらに、この複雑な斑紋パターンは、新たな部位にWingless発現を転用することによって、より単純な斑紋から進化したことを示す。既存のパターンの上に新たなパターンを重ね合わせることで発生および進化する複雑なデザインのこのような例は、ほかの動物でも広くみられると思われる。

ホヤの脊索形成過程における形態的なパターン形成は調節的で非常に頑強である。

Development 2002 129: 1-12
ホヤの脊索は、単層の 上皮 板が陥入と収斂伸長を同時に行うことで形成される。脊索自律的な形態形成運動と周辺組織との相互作用がどのようにして全体的な運動のパターンを決定するの かを調べるために、顕微操作、タイムラプス撮影、共焦点顕微鏡法を組み合わせた解析を行った。 64 細胞期に単離された脊索前駆細胞は正常なタイミングで細胞分裂して運動性を示したが、 脊索以外の組織との相互作用がない状態では陥入も収斂伸長も行わなかった。また、ホヤの脊索形成は特定の隣接する組織を必要としないという点で頑強であることを発見した。 脊索前駆体 がその基底面で 神経板、内胚葉 / 間充織、 後方中胚葉のいずれかと 接触 する だけで、脊索板が形成されて 円筒 状に伸長するのに十分である。 意外なことに 、収斂伸長の軸は脊索と接触する 特定の組織に依存し、脊索形成に付随するその他の細胞形態変化、運動、組織変形などのパターン についても同様のことが言える 。今回は神経板を欠く胚を詳細に記載した。これらの胚では、 正常な脊索が形成されるが、正常胚とは全く別の方法で形成される。この結果からホヤの脊索形成は非常に調節的であることが分かる。また、この調節的な細胞の挙動は脊索板 が 自律的に 形態形成を行う傾向と周辺組織 との 指示的または許容的な複雑な相互作用に依存することが示唆される。この現象を説明するメカニズム、脊索形態形成に対する意義と脊索動物門での脊索 形成の進化について議論する。

 

6月11日

自己増殖可能な人工最近の創出。

Science.2010 May 20.
筆者らはこれまでに、真正細菌の一属Mycoplasmaにおいてゲノム抽出法、レピシエント細胞の作製法ゲノム移植法などを確立(Science2007&2009)してきた。また600kbp近いサイズのDNA合成に成功している。(Science 2008)。今回、Mycoplasma mycoides(ゲノムサイズは1083kbp)のwholeゲノムの化学合成を行って,これをcpricolumレシピエント細胞に移植して増殖させたところ、遺伝子型と表現型がmycoidesのものに変化した自己増殖可能な細胞が得られた。人工生命の誕生にはまだ遠いが、大きな一歩である。

ホヤにおけるBrachyury遺伝子の欠失は内胚葉の適切な分化に影響を及ぼす。

Development 2009 136:35-39
BrachyuryはT-boxを持つ転写因子で脊椎動物の中胚葉形成において重要な機能を果たすことが知られている。ホヤにおいては、その発現が脊索予定細胞や脊索細胞に限られており、脊索の分化に重要であると考えられている。ホヤにおけるBrachyuryの機能については、上流因子の発現抑制やMOによるノックダウン等の方法で調べられてきているが、内胚葉に対する影響についてはその結果が一様ではなかった。今回ENU操作によりBrachyury null型変異体を作出したところ、驚くべきことに脊索細胞の予定運命からはずれた細胞の一部が内胚葉に分化した。このことからBrachyuryの欠失は予定脊索細胞の分化と内胚葉の正常な形成に影響を及ぼすことが示唆された。

 

6月18日

単為生殖性のトカゲでは姉妹染色分体の対合がヘテロ接合性を維持している。

Nature 2010 464:283-286
Aspidoscelis属のハシリトカゲには、すべて雌だけの単為生殖で増殖する種がしばしば見られる。これらの種は有性生殖する種の交雑によって生じたものだが、ヘテロ接合が高度に維持されている。二倍体の卵がどのようにできるか、また、ヘテロ接合がどのように維持されているかは、まだ分かっていない。本論文では、単為生殖をする種では減数分裂が有性生殖をする種の2倍の染色体数をもつ状態から始まることを示している。この機構により、古典的な減数分裂プログラムから本質的に逸脱することなく、二倍体の卵を作ることができる。また、相同染色体間ではなく、遺伝的に全く同一な姉妹染色体間で対合と組み換えが起こることを明らかにしている。

ユウレイボヤの初期の変態は中枢神経系におけるノルアドレナリンまたはアドレナリンと1-アドレナリン受容体の相互作用によって引き起こされる。

Developmental Biology 2003, 258:129-140
幼生の変態を引き起こす分子メカニズムや、海産無脊椎動物の神経系の役割は十分に理解されていない。本研究では、ユウレイボヤの遊泳幼生をノルアドレナリンまたはアドレナリンで処理することにより変態初期における形態変化(例えば尾部吸収)が促進されること報告する。βアドレナリン受容体のアンタゴニスト(プロプラノロール)、β(1)-アドレナリン受容体のアンタゴニスト( メトプロール)はノルアドレナリンによって誘導される尾部吸収を阻害した。これに対して、αアドレナリン受容体のアンタゴニスト(フェントラミン)とβ(2)アドレナリン受容体、のアンタゴニスト(ブトキサミン)は阻害効果を示さなかった。また、βアドレナリン受容体の選択的アゴニストであるイソプロテノールは尾部吸収を促進した。ドーパミン水酸化酵素に対する抗体を用いた免疫組織化学的な解析によると、ノルアドレナリンやアドレナリンのような神経伝達物質は変態期の幼生の脳胞の周辺に局在していることが示された。β(1)-アドレナリン受容体は抗体染色により神経系 での局在が確認された。β(1)-アドレナリン受容体は変態のコンピテンスを獲得した幼生の神経系で強い発現を示した。これらの結果から、中枢神経系におけるノルアドレナリンまたはアドレナリンとβ(1)-アドレナリン受容体の相互作用がユウレイボヤの変態過程を制御していることが示唆される。

 

6月25日

減数分裂期組換えによってp53制御ネットワークの機能の活性化が誘導される

Science, 4 June 2010, Vol. 328
p53タンパク質は癌の腫瘍の抑制機構において重要な働きをするタンパク質として知られているが、まだ知られていない機能があると考えられる。そこでDrosophilaを用いて生体内でのp53タンパク質ネットワークの活性を見るために遺伝子レポーターを用いた。その結果、減数分裂期組換えがp53タンパク質の生殖系細胞での活性を誘導した。トポイソメラーゼの一種であるSpo11によってDNAの2本鎖が壊れる事で機能的p53の活性が誘導される。このようなp53タンパク質ネットワークに対する内因性の刺激はよく保存されていると考えられる。これはSpo11依存的なp53の活性はマウスでも見られたためである。筆者らの発見は減数分裂時のp53の生理学的な働きがあることを示唆している。

 

植物割球によるホヤ末梢神経の誘導

Developmental Biology 2003, 258:129-140
ホヤの神経系のうち、脳胞はa4.2細胞由来の割球から分化するが、その分化にはA4.1割球由来細胞からの誘導シグナルが必要であることが分かっている。その一方で、末梢神経系の分化に関わる分子メカニズムはよく分かっていない。その原因は末梢神経系を特異的にラベルするマーカーが無いことである。この研究では、ゲルゾリン(アクチン結合タンパク質)がホヤ幼生の末梢神経系の大多数を占める表皮感覚神経(ESN)で発現することを発見し、それを用いてESNの分化メカニズムを解析した。動物極側の割球、すなわちa4.2および b4.2由来の割球を単離すると、ESNは分化しないことからESNの分化には植物極側の割球による誘導が必要であることが分かる。A4.1割球はa4.2割球からのESNの分化を誘導できるが、b4.2割球からのESNの分化を誘導できない。一方B4.1割球は、a4.2, b4.2両方の割球からESNの分化を誘導できる。これは脳胞の分化が、B4.1割球を必要としないことと大きく異なる点である。bFGFはa4.2, b4.2由来の両割球からのESNの分化を誘導できる。a, b由来割球のESNの分化能力(competence)は110細胞期から神経胚期の間に消失する。これらのことから、a-lineとb-line由来ESNの分化は異なる誘導シグナルによりもたらされることが明らかとなった。

7月2日

SR関連タンパク質による神経系特異的な選択的スプライシングと神経発生の制御

Cell. 2009 Sep 4;138(5):898-910
選択的スプライシングはタンパク質の数やその機能に重要な過程であり、特に哺乳類の脳において顕著に見られる。しかしながら、神経特異的な選択的スプライシングを制御するメカニズムについてはほとんどわかっていない。この論文の筆者らは計算機を用いた網羅的な解析ととランスクリプトーム解析から、神経特異的なSR関連タンパク質nSR100を同定した。nSR100の機能解析の結果、nSR100はニューロンの分化に機能する遺伝子の脳特異的なエキソンの選択的スプライシングを正に制御し、ニューロンの分化を制御していることが明らかになった。

ホヤにおけるCNSのパターニングは脊索を起源とするfibrinogen-likeタンパク質とNotchの相互作用により調節される Developmental Biology 328 (2009) 1-12
脊椎動物においてCentral Nurvous System(CNS)の形成についてその分子機構を含めよく研究されている。しかしながら、その過程において脊索細胞に発現する遺伝子については研究はされていない。この論文では、我々はカタユウレイボヤのfibrinogen-likeタンパク質をコード する遺伝子(Ci-fibrn)が脊索依存的な神経細胞のポジショニングに重要な役割を 持つことを報告する。この遺伝子は脊索のみで発現しているが、そのタンパク質 は脊索細胞だけでなくCNSの下部に分布している。我々はこのCi-fibrnがCNSに発 現するNotchと物理的かつ機能的に相互作用することと、Ci-fbrnタンパク質の正 しい分布はNotchシグナルに依存していることを明らかにした。Ci-fbrinタンパ ク質の分布を乱すことにより、神経細胞のポジショニングやアクソンの伸長に異 常が見られる。これらの結果は脊索を起源とするfibrinogen-likeタンパク質と 神経管を起源としたNotchシグナルの間にCNSの適切なパターニングに必須な役割 があることを示唆している。

7月16日

生体内でタンパク質の選択的な標識を可能とするリガンド指向性トシル化学

Nat Chem Biol. 2009 May;5(5):341-3.
リガンド指向性トシル化学を用いて、生体内において内在性の特定の分子に対して 部位選択的に合成分子を付加する方法を報告する。 この方法を用いると、生細胞、組織、マウス体内で生体分子を化学的に標識することができる上に、 遺伝子工学を用いることなく細胞内に直接バイオセンサーを構築することが可能になる。 リガンド指向性トシル化学は生命システムを研究し操作するための新たなツールになることが期待される。

カタユウレイボヤを利用したアルツハイマー病研究

Dis Model Mech. 2010 May-Jun;3(5-6):377-85
アルツハイマー病(AD)研究は、ADモデル動物を利用してアミロイド前駆体タン パク(APP)のプロセシングなどを再現したりする。これまでにショウジョウバ エや線虫のADモデルが作られたが、アミロイドβタンパク質(Aβ)配列とβセクレ ターゼオーソログを欠いているためにin vivoでAPPプロセシングを調べる事を複 雑にしていた。しかし、系統学的にヒトに近いホヤはすべてのAD関連遺伝子の オーソログを持っており、無脊椎動物のADモデルとしてもっとも適した動物であ る。トランスジェニックホヤを使ってヒトAPP695からAβペプチドを産出すること ができた。また、Aβは急速に凝集し、アミロイド様プラークを形成、そのプラー クは、家族性アルツハイマー病の原因となるAPP695変異体を発現するホヤでは著 しく増加した。

7月30日

脊椎動物の脊髄における行動モジュールの光遺伝学的解析

Nature 461, 407-410 (17 September 2009)
歩行や魚類の遊泳などのリズミックな体移動にはCPGという神経ネットワークか らの周期的な入力が不可欠である。脊椎動物においてCPGへの入力は2通りあり、 一つは脊髄よりも上位の中枢神経からのグルタミン酸作動性の入力で、もう一つ は脊髄からの入力である。今回我々は交差的遺伝子発現と光遺伝学を用いてゼブ ラフィッシュ幼魚で自発的な遊泳を駆動するCPGへの脊髄性の入力を同定した。 脊髄中心管内に繊毛を伸ばしているKolmer-Agduhr細胞は75年前からその存在 を知られていたが、その機能は不明であった。この細胞を刺激すると自発的前進 運動に相似した左右相称な尾の振れが誘発された。また、遺伝子操作でKolmer- Agduhr細胞の活動を阻害すると自発的な自由遊泳の頻度が下がった。このことか らゼブラフィッシュの発生初期においてはこの細胞がCPGを活性化させ自発的な 遊泳運動を誘導していることが明らかになった。

Ciona精子の活性化因子SAAFの実体

Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 Nov 12;99(23):14831-6. Epub 2002 Oct 31 /FEBS Lett. 2008 Oct 15;582(23-24):3429-33. Epub 2008 Sep 19

受精において精子の運動活性化と卵への走化性、特に体外受精を行う生物では走化性の種特異性が重要である。ユウレイボヤ精子は海水中に取り出した だけでは静止したままであるが、未受精卵をその近傍へ置くと精子は運動をすぐに開始し、卵への走化性を示す。卵海水上清をエタノール・クロロフォ ルム抽出して逆相カラムにかけ、活性画分を分取精製することで卵から放出される精子運動活性化・誘因因子(SAAF : sperm activating and attracting factor)を得ることができる。SAAFは耐熱性やプロテアーゼ耐性を有し、透析より14kDaより小さいサイズであることが分かっている。ユウ レイボヤ、カタユウレイボヤのどちらから精製したSAAFであっても、双方の精子は運動活性化と走化性の両方を示す。交雑を防ぐ機構は別にある様だ。 PNAS (2002)では、NMRやMS/MSでSAAFがタンパク質でもペプチドでもない、新奇の硫酸化ステロイド(MW 約640。イオン化時594)であることを明らかにし た。加水分解により硫酸基が外れると走化活性は消失する。 FEBS (2008)ではさらにSAAFや誘導体の人工合成を行い、SAAFが単一で精子運動活性化・走化性の両活性を担っていること、硫酸基が2つとも外れると両 活性能が消失することを示した。また活性能ごとにレセプターが異なる可能性を示唆している。

9月3日

サリドマイド結合因子の同定

Science. 2010 Mar 12;327(5971):1345-50

サリドマイドは服用した妊婦の新生児の四肢の退縮(アザラシ肢症)を引き起こすことが知られる薬品である。その催奇性を生むメカニズムはこれまで不明であった。この論文では、サリドマイドの結合因子としてCRBNを同定した。CRBNはDDB1、Cul4Aと共にE3ユビキチンリガーゼ複合体を形成する。E3ユビキチンリガーゼ複合体はFGF8の発現と四肢の伸長に重要である。サリドマイドはCRBNに結合するとE3ユビキチンリガーゼの活性を阻害するため四肢形成の異常を引き起こす。

原索動物における組織適合性遺伝子座位の単離と解析

Nature. 2005, 438, 454-9.

群体ボヤであるBotryllus schlosseriの組織適合反応(同種群体間の癒着/拒絶反応 )はFuHC(fusion/histocompatibility)と呼ばれる高多型な一つの遺伝子座によって支配されている。本研究では組織適合性を司る候補遺伝子として、この遺伝子座に位置し免疫グロブリンドメインを持つ膜タンパクをコード鶴遺伝子を単離した。 本研究は、無脊椎動物における組織適合性を制御する遺伝子の最初の報告であり、脊椎動物の獲得免疫の進化を議論する上で重要な知見をもたらすと考えられる。

9月9日

トランスポゾンを用いた染色体工学技術による、シス調節領域の解析法

Nature Genetics 41(8) 946-952 (2009)

脊椎動物のゲノムにおいては、遺伝子発現調節を行うcis調節領域が非常に長い ことが一般的である。特にこの傾向は発生過程でキーとなり働く遺伝子によく認 められる。それはこれらの遺伝子の発現パターンが厳密に決められる必要がある からである。その重要性の一方で、数百kbpに渡るこれらのcis調節領域を研究す る手法は現在のところ非常に限られている。本研究では、マウスのゲノム内にお いて、それらcis領域をSleeping Beauty(SB)トランスポゾンのローカルホップ機 構を利用して解析する新しいゲノム改変手法を開発したので報告する。  SBトランスポゾン内にenhancer活性検出用のlacZ コンストラクトとloxPカ セットを持つ人工ベクターを用意し、それをマウスPax1遺伝子の上流に挿入させ たES細胞を作製した。そのSBトランスポゾンベクターをローカルホップさせ、 Creを利用してゲノム領域の一部を欠失させた。さらにそのES細胞からマウス胚 を作り、LacZの発現を観察した。各種のdeletion/insertionを持つマウス胚での LacZ発現パターンの比較から、Pax1の発現に関わるcis調節配列のゲノム上での マッピングを進めることができた。このことからSBトランスポゾンを利用した cisエレメント解析の有効性が証明された。

ホヤ生殖前駆細胞における紡錘体の配向には2種類のメカニズムが関与する

Development. 2010 Jun;137(12):2011-21. Epub 2010 May 12.

非対称な卵割には紡錘体の配向が重要であり、その極性には皮層からの合図が関与していると考えられている。しかしどのようにして紡錘体が制御されているかはわかっていない。そこで筆者はホヤのCABによって多くの局在を示す母性因子が非対称な卵割の際に卵の後極へ局在できる事に着目した。 この母性因子のなかには筋肉などの決定因子や精細胞を形成するのに必要な因子を含んでいる。筆者らは4Dコンフォーカルイメージングや、割球の単離実験を通して、分裂前中期から後期にかけての紡錘体の位置の移動を確認した。その結果ホヤの非対称な分裂には2通りの紡錘体移動のメカニズムが関与していることがわかった。 また、Pem1のノックダウン実験によって、Pem1が不等卵割には必要であり、紡錘体の移動をランダム化してしまうことが分かった。

9月16日

紡錘体に依存しない分裂溝の配置決定機構

 Nature. 2010 Sep 2;467(7311):91-4.

後生動物の細胞分裂では有糸分裂紡錘体によって分裂溝の位置が決定されるが、ほかの機構も存在するのかどうかはわかっていない。本研究では、ショ ウジョウバエ( Drosophila )の神経芽細胞において、紡錘体に依存しない分裂溝の位置決定機構があることを明らかにする。我々は、初期および後期の分裂溝タンパク質 (Pavarotti、Anillinおよびミオシン)が、分裂後期開始時にPins表層極性経路によって神経芽細胞の基底側表層に限局し、それ によっ て、紡錘体が全く存在しない場合でも、基底側に移動した位置で分裂溝を誘導されることを示す。紡錘体に回転またはずれが生じると、初期に極性に よって誘導 される基底側の分裂溝と、後期に紡錘体によって誘導される分裂溝の2種類が生じる。この紡錘体非依存的な分裂溝機構は、哺乳類の神経前駆細胞のよ うな、高 度に極性化した有糸分裂細胞にも関与していると思われる

ホイノシトールリン脂質の脱リン酸化活性は内在性の電位センサーと共役する

Development. 2010 Jun;137(12):2011-21. Epub 2010 May 12.

膜電位の変化はイオンチャネルやトランスポーターに影響し、細胞内の科学的な状態を変化させる。膜電位とカップルするシグナル伝達経路の存在は示唆されていたが、そのメカニズムは不明であった。この論文ではカタユウレイボヤから単離された電位依存性チャネルの膜電位センサー領域とPTENのフォスファターゼ領域を持つ新規タンパク質(Ci-VSP)について報告を行っている。Ci-VSPは電位変化により構造を
変化させ、膜電位変化をイノシトールリン脂質の代謝に反映させる。Ci-VSPのイノシトールリン脂質の脱リン酸化活性は生理的な膜電位変化の範囲で起こる。免疫染色により、Ci-VSPはカタユウレイボヤ精子の尾部の細胞膜に局在していることが示され、Ci-VSPは精子の機能や形態に関与していることが示唆された。これらの結果から、膜電位変化はイオンの出入りだけでなく、これまでに考えられていたよりも幅広い生理現象に関与している可能性が示唆された。

10月1日

ゼブラフィッシュのクッパー細胞におけるCaMK-IIの活性化が左右非対称性に必須である。

 Development 137, 2753-2726 (August 15, 2010).

マウス胚の結節やゼブラフィッシュのクッパー小胞の左側で細胞内カルシウムイ オン濃度が上昇すると、初期における非対称性の原因となる。ゼブラ胚では、カ ルモジュリンキナーゼ(CaMK-II)がこのカルシウムイオン上昇のターゲットと して必要であることがわかった。カルモジュリンキナーゼは、6〜12体節期に クッパー小胞の左前側壁に沿った4つの連結した細胞で一過性に活性化される。 活性型カルモジュリンキナーゼは、細胞表面やクッパー小胞の繊毛の基部に見ら れるクラスターで観察される。初期のゼブラ胚において、アクティブなカルモ ジュリンキナーゼをコードする遺伝子は7つあるが、そのうち1つは、活性型と ヘテロオリゴマーを形成する切断型の不活性型変異体(αKAP)もコードしてい る。αKAPとβ2カルモジュリンキナーゼ、γ1カルモジュリンキナーゼのモルフォリ ノオリゴは、器官の位置をランダム化し、さらにsouthpaw遺伝子(spaw)を側板 中胚葉で発現させた。左側のカルモジュリンキナーゼ活性はインタクトなクッ パー小胞やPKD2カルシウムチャネル、γ1カルモジュリンキナーゼにもっとも依存 しているが、αKAPやβ2カルモジュリンキナーゼ、RyR3リアノジンレセプターも充 分なカルモジュリンキナーゼ活性には必要である.

ホヤの内胚葉の陥入は、細胞の頂端と基底側面の収縮性が順次活性化されることにより起こる。

Curr Biol. 2010 Sep 14;20(17):1499-510. Epub 2010 Aug 5.>

背景:上皮の陥入は平らな細胞層を穴や溝に変形させる形態形成運動である。陥入に関するこれまでの研究はアクトミオシン依存的な頂端収縮の役割に焦点を当ててきが、そのほかのメカニズムに関しては未知のままである。

結果:実験とコンピューターを用いた手法を組み合わせることで、ホヤの原腸陥入過程における内胚葉陥入の2段階のメカニズムを明らかにした。陥入にわずかに先行する第1段階では、Rho/Rho-Kinase依存的な頂端側への一リン酸化ミオシンの濃縮によって内胚葉細胞が頂端収縮する。内胚葉の陥入自体は第2段階で起こるが、この段階ではそれ以上の頂端収縮を伴わない新たなメカニズム'collared rounding'によって陥入が起こることが示唆された。(詳しく説明すると、)Rho/Rho-kinase非依存的な基底側面への一リン酸化ミオシンの濃縮が頂端―基底方向の収縮を駆動し、Rho/Rho-kinase依存的な周囲-頂端側への一リン酸化ミオシンと二リン酸化ミオシンの濃縮が頂端拡張を抑制して深部へと陥入するのに必要である。シミュレーションを行ったところ、活性型ミオシンの分布と一貫性をもつ境界特異的な張力の値によって陥入過程で観察された細胞形態変化が正常胚およびRho-kinaseまたはミオシンUATPaseの阻害剤で処理された胚について説明できることが分かった。さらに、周囲-頂端の強力な張力と基底側面の張力のバランスは、細胞表層の張力の差に基づいた機構としては唯一ホヤの内胚葉陥入を説明できることが分かった。最後に、シミュレーションからは2つの段階において中外胚葉が内胚葉細胞の形態変化に抵抗することが示唆されたが、この予想を実験的に確認することができた。

結論:今回の発見はホヤの初期原腸陥入が周囲-頂端と側面の内胚葉の協調的な収縮によって駆動され、それに抵抗する中外胚葉に対して作用することを示唆する。同様の機構は他の陥入においても機能していると考えられる。

10月8日

ヒストンの翻訳後修飾による選択的スプライシングの制御

 Science. 2010 Feb 19;327(5968):996-1000. Epub 2010 Feb 4.

mRNA前駆体における選択的スプライシングはタンパク質の多様性に欠かせない卓越した機構であるが、その制御についてはまだ不明な点が多い。 正常前立腺上皮細胞(PNT2)で選択されるエキソンが間充織幹細胞(MSC)ではポリピリミジン・トラクト結合タンパク質(PTB)によりスプライシング抑制されることが分かっているヒト線維 芽細胞増殖因子受容体2遺伝子(FGFR2)に着目し、それぞれの培養細胞におけるFGFR2コード領域のゲノムDNAを巻き付けているヒストンの修飾を調べ、選択的スプライシングに影響する修飾を 特定した。 MSCでは選択的エキソン領域のH3-K36のトリメチル化レベルが高く、クロマチンタンパク質MRG15がH3-K36me3に結合してPTBをリクルートし、選択的エクソン生成を抑制していることを明らかに した。 これはヒストンの翻訳後修飾がMRG15を介して直接的に選択的スプライシングへ影響することを示した論文である

種特異的なオーファンレセプターとGPCRのヘテロ二量体化によっておこるシグナリング経路の機能的な多様化

Mol Biol Evol. 2010 May;27(5):1097-106. Epub 2009 Dec 21.>

GnRHはGPCR(G-Protein−Coupled−Receptor)であるGnRHRを介して様々なシグ ナル伝達を引き起こす。 近年6つのGnRH(tunicate GnRH /t-GnRH3 to t-GnRH8)と4つのGnRHR(Ciona intestinalis/Ci-GnRHRtoCiGnRHR4 )がカタユウレイボヤで同定され、そのうち のGnRHR4については機能をもたないオーファンレセプターだと考えられていた。 今回我々は、このオーファンレセプターGnRHR4(以下R4)とGnRHR1(以下R1)が ヘテロ二量体を形成することによってひきおこされる新たなGnRHのシグナリング 経路を発見した。 R1がGnRH6(以下)と結合するとCa2+濃度の上昇とCAMPの生産が起こることが知 られている。 R4自体にはH6との結合能力はないが、R1-R4ヘテロ二量体を形成した場合、 R1に よるCa2+濃度の上昇が10倍ほど高くなる。また、R1-R4ヘテロ二量体はH6によ る Ca2+に依存的なプロテインキナーゼC‐α(PKCα)の誘導と、H6、H5によるCa2+ 非依存的なPKCζの誘導を増強し、最終的にERK (extracellular signal-regulated kinase)のリン酸化をより高めることがわかった

10月15日

花粉側自家不和合性遺伝子の変異によるシロイヌナズナの自家不和合性の進化

 Nature. 2010 Apr 29;464(7293)

自家不和合性システムは自殖を防ぐ主要な仕組みである。シロイヌナズナは自殖性の種であり、進化の過程で自家不和合性システムの不活性化が起こっていると考えられている。本研究では、ヨーロッパにおける系統の95%に認められる、花粉側自家不和合性遺伝子SCRの機能喪失型の逆位変異を見つけた。対して、雌ずい側自家不和合遺伝子SRKを含む雌ずい側の自家不和合性はいくつかの系統で機能を維持していた。また、SCR遺伝子の逆位変異を修復した組換え遺伝子を正常なSRKを持つシロイヌナズナに導入すると、自家不和合性が回復することを明らかにした。本研究では自家不和合性不活性化の原因となった変異が、花粉側因子SCRの逆位変異であることを明らかにし、これがシロイヌナズナの自家和合性の進化に関わる変異のひとつだと示している


10月22日

ヒストンH1のアイソフォームの一つであるH1.1はクロマチンのサイレンシングと生殖系列細胞の発達に必須である

 Development. 2001 Apr;128(7):1069-80.

線形動物である Caenorhabditis elegans の生殖系細胞では組換え DNA は効率的にサイレンスされている。この機構の分子メカニズムは mes 遺伝子にコードされているクロマチンタンパク質が関与していると考えられている。この mes 遺伝子は線虫の転写抑制因子であるポリコームグループのホモログである。筆者らは線虫の生殖細胞でのヒストン H1 遺伝子ファミリーの転写抑制への関与を検証した。この H1 遺伝子ファミリーの一つによる生殖系での dsRNAi が導入遺伝子レポーターの発現抑制に必須である。そのうえ、H1.1 遺伝子発現による RNAi の働きによって雌雄同体個体の生殖細胞の増殖と分化に影響があり、生殖不能になる。さらに H1.1 RNAi の実験により得られた結果を検証した結果、mes 表現型の特徴と酷似していた。この結果は、生殖細胞の体細胞分裂に必要な遺伝子の脱サイレンシングによる。筆者らの観察から、この mes 表現型の結果をサポートするものであり、線虫では単ヒストン H1 のアイソフォームである (H1.1) は生殖系細胞でのクロマチンサイレンシングの新しい構成物質であることが示唆された。

macho-1は同じFGFシグナルに対して脊索細胞と間充織細胞の間で異なった細胞応答を誘導する。

 Development 130, 5179-5190 (2003)

細胞外のシグナル因子は複数の異なる種類の細胞に働きかけ、それぞれの細胞に 応じた応答を生み出す。同じシグナル分子に対してシグナルを受容する側の細胞 が異なる応答をみせるのは、それぞれの細胞の内在する因子が異なるためであ る。ホヤの幼生では、脊索細胞と間充織細胞がそれぞれ胚の植物側の前方側と後 方側の側面に形成される。これらの細胞は内胚葉から放出される同じFGF分子に より誘導され、異なる2種類の細胞が分化するのは卵の植物極側後方の細胞質を 受け継ぐかどうかに依存している。今回の研究では筋肉細胞の分化決定因子とし て同定されたmacho-1が間充織細胞の分化にも必要であることを突き止めた。つ まり、macho-1を受け継ぐかどうかによりFGFにより脊索細胞と間充織細胞のどち らが誘導されるかが決められる。具体的には、macho-1はsnail転写抑制因子を介 して、間充織細胞における脊索分化を抑制することが判明した。

11月5日

Rab GTP依存的な細胞内経路はNカドヘリンの輸送を介して神経の配置と成熟を調節している

 Neuron. 2010 Aug 26;67(4):588-602

哺乳類の大脳皮質は6層の層状構造をしており、それぞれ形態や機能の異なる細胞が存在しており、 複雑な神経ネットワークが形成されている。 大脳皮質の層構造が乱れるとてんかんや精神遅延などの重篤な神経疾患の原因となることが知られている。 つまり、大脳皮質が正常に機能するためには正しい位置に神経細胞が配置されることが重要である。 この論文では大脳皮質を形成する際に正しい位置に神経細胞が配置されるメカニズムについて、 細胞膜の輸送系に注目して解析を行っている。

Macho1 と Tbx6転写因子による筋肉に関する遺伝子カスケードの時間的な制御

Journal of Cell Science, 2010, 123, 2453-2463>

ホヤ胚 の胚発生において筋肉の形成の分子メカニズムは母性因子Mach1とその下流で機能する Tbx6bとTbx6cまで明らかになっている。しかしながら、母性因子の情報がどのようにして筋肉形成に関与する転写因子や構成因 子に、そして母性から胚性へと伝えられて行くのかは不明な点が多い。この論文ではcis-regulatory module (CRM)を異所的に発現させることで、Macho1がTbx6bとTBx6cの発現を引き起こすことを明らかにした。また、その下流因子の制御について も明らかにした。Tbx6bのCRMの解析からTbx6cのCRMの同定とfibrillar collagen Iの2つのCRMについても特徴付けることができた。

11月18日

社会性アメーバにおける協同的振る舞いの出現

 Science. 2010 May 21;328(5981):1021-5

社会性アメーバのキイロタマホコリカビは、周期的にcAMPの合成と細胞外への放出を繰り返して、細胞の集合と子実体形成における細胞分化と形態形成運動を制御していることが知られている。しかし、この周期性が個々の細胞の内在性性質なのか、細胞が集団になって初めて現れる性質なのか明らかでなかった。今回、生きた細胞集団のイメージングにより、後者であることが実証された。 。

転写因子結合領域に依存しないシス調節サイン

Curr Biol. 2010 May 11;20(9):792-802

転写開始はシス調節モジュールによってコントロールされている。このモジュー ルは大抵、短い転写因子結合サイトのクラスターから成るが、ゲノム中のそのよ うなクラスターのごく一部はシス調節活性を持っている。 不活性のクラスターから活性型を識別しているものを同定するため、二つのETS と、カタユウレイボヤOtxの初期神経エンハンサーに類似している二つのGATA結 合サイトのクラスターに注目した。まず始めに、カタユウレイボヤとユウレイボ ヤ間で保存されているクラスターを55個見いだした。In vivoアッセイにより3 つの新規な初期神経エンハンサーを同定、それらはすべてOtxと共発現する遺伝 子に位置していた。ETSとGATA結合サイトの最適化は不活性のクラスターを活性 化するのに充分ではなく、むしろ二塩基配列がエンハンサーポテンシャルとの強 い関係を示した。

11月26日

ファンコニ貧血相補群L遺伝子の変異ゼブラフィッシュで見られる性転換はp53依存的な細胞死によって引き起こされる  

 PLoS Genet. 2010 Jul 22;6(7):e1001034

性決定の分子遺伝学的メカニズムはゼブラフィッシュを含めた多くの脊椎動物で明らかになっていない。 今回ゼブラフィッシュのfancl 変異体でメスからオスへの性転換が起きることが明らかになった。 fanclはDNA修復に関わるFanconi Anemia/BRCA経路を構成するタンパク質をコードしている。fanclの変異体では卵母細胞が減数分裂期にある 性決定に重要な時期に卵母細胞が過剰にアポトーシスを起こしその結果メスからオスへの性転換が起きることが明らかになった。 減数分裂期に卵母細胞が存在しないと,将来生殖腺になる体細胞で卵巣特異的な遺伝子cyp19a1a の発現が保たれず、結果初期の精巣で発現するamp の発現が上昇し生殖腺は精巣へと分化する。 fancl はTp53 によっておこる卵母細胞のアポトーシスを妨げ、生殖腺が卵巣へ分化するのを促すことが明らかになった。

酸素消費量の変動周期とマイクロアレイにより明らかにしたカタユウレイボヤの概日時計

J Biochem. 2010 Feb;147(2):175-84

カタユウレイボヤではドラフトゲノムが明らかにされているが、脊椎動物や昆虫に 保存されているPer、Bmal、Clockといった時計遺伝子がカタユウレイボヤのゲノム には欠けており、これまで体内時計の存在は不明であった。 今回、水槽飼育下のカタユウレイボヤについて酸素消費量の変化を調べたところ、 明暗・恒暗のいずれの条件下においてもリズムが見られた。 そこで、カタユウレイボヤの遺伝子断片21,695個について1日における発現量の変化を マイクロアレイで解析したところ、およそ388個の遺伝子が24時間周期を示した。 これらの時計候補遺伝子のうちのいくつかについてはノザンブロッティングを行い、 概日発現を確認した。 さらに周期的な発現を示す遺伝子のうち4遺伝子を選んで光による周期のリセット効果を 受けるか調べたところ、3遺伝子が位相変化を示した。しかしながら、既知の時計遺伝子 のカタユウレイボヤ・ホモログのほとんどは発現周期を示さなかった。 これらのデータから、カタユウレイボヤは脊椎動物や昆虫とは異なるユニークな概日時計 を持つことが示唆された。 これは生理・分子レベルでホヤの概日リズムを示した最初の論文である

12月17日

非筋細胞ミオシンIIAはHSV-1の侵入受容体として機能する  

 Nature. 2010 Oct 14;467(7317):859-62.

単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)は、α-ヘルペスウイルスファミリーの基本型であり、ヒトに終生感染する。HSV-1は、一般にはさまざまな皮膚粘膜疾患の原因になるが、致命的な脳炎を引き起こすこともある。HSV-1が宿主細胞に侵入するには、エンベロープの糖タンパク質B(gB)とD(gD)の両方に対する宿主細胞受容体が必要である。しかし、 in vitro での広い宿主範囲をもたらし、 in vivo での重大な標的の感染にかかわるgB受容体は、いまだに解明されていない。今回我々は、非筋細胞ミオシンIIA(NM-IIA)のサブユニットである非筋細胞ミオシン重鎖IIA(NMHC-IIA)が、gBとの結合によってHSV-1侵入受容体として機能することを明らかにする。HSV-1感染に比較的抵抗性である細胞系が、NMHC-IIAを過剰発現させるとHSV-1に非常に感染しやすくなった。本来HSV-1感染許容性の標的細胞では、NMHC-IIAに対する抗体によってHSV-1感染が阻害される。また、感染許容性細胞のNMHC-IIAをノックダウンすると、HSV-1感染が阻害されるとともに、HSV-1のgB、gD、gH、gLを同時に発現させても細胞融合が阻害される。HSV-1の侵入開始時には、細胞表面でのNMHC-IIA発現が迅速に著しく亢進した。ミオシン軽鎖キナーゼはリン酸化によってNM-IIAを調節しているが、このキナーゼの特異的阻害剤は培養細胞やヘルペス間質性角膜炎のマウスモデルで、細胞表面のNMHC-IIAの増加を抑えるとともにHSV-1感染を抑制した。NMHC-IIAは、ヒトのさまざまな組織やさまざまな型の細胞で広く発現されているので、 in vitro と in vivo の両方でgB受容体として機能してHSV-1の広範な感染性にかかわっていると考えられる。NMHC-IIAがHSV-1の侵入受容体と同定され、NM-IIAの調節がHSV-1の感染にかかわっていることがわかり、HSV-1の侵入機構と新しい抗ウイルス薬開発の標的についての手がかりが得られる。

ホヤのprickle遺伝子は脊索細胞の極性を制御する

Current Biology, 2005, 15, 79-85.

ホヤの脊索は、convergent extension(収斂伸長、CE)と呼ばれる細胞運動によって シート状に配置されていた脊索細胞が一列に並び、その後、個々の細胞が前後軸方向に 伸長することで形成される。脊索細胞内では、CEの際にはmediolateral軸に、前後への 伸長の際には前後軸に、平面内細胞極性(PCP)経路の構成因子の極性化が見られた。 PCP遺伝子prickleの突然変異体ユウレイボヤでは、脊索の形態形成に異常が見られた。 この変異体では、CEおよび前後への伸長運動の際の脊索細胞の極性が失われており、 PCP経路がホヤの脊索細胞の極性化を制御し、正常な脊索の形態形成に必要で あることが示された。

1月28日

ゼブラフィッシュにおけるZinc-finger nuclease (ZFN)を用いた特定領域のゲノム欠失法  

 Nature Biotechnology 26, 695-701

ゲノムの特定の領域を狙っての改変を加えることは、現在においてもほとんどの脊椎 動物で実現不可能な技術である。一方脊椎動物のいくつかの細胞株では、特定の領域 のゲノム欠失方法がZinc-finger nuclease (ZFN)を利用して行うことが可能になって いる。この論文では、そのZFNを用いたゲノム改変技術をゼブラフィッシュの生殖細 胞系列に導入した。今回は、ゼブラフィッシュのvascular endothelial growth factor-2 receptorをコードする遺伝子kdrの配列を認識するZFNを作製した。このZFN をコードするmRNAをゼブラフィッシュの1細胞期胚に導入したところ、この遺伝子の ゲノム領域の欠失変異を引き起こし、その変異は子孫に高頻度で遺伝した。ZFN技術 はES細胞のような特殊な実験手法が確立していない生物でも遺伝可能なレベルのゲノ ム変異を作り出すことができ、基本的に初期胚が入手でき実験に使用可能なほぼ全て の動物に応用できると考えられる。

カタユウレイボヤ中枢神経系の再生と変態後の発生

Cell Tissue Res. 1995 Feb;279(2):421-32.

本研究では、筆者らはカタユウレイボヤ中枢神経系を認識するの3種類のモノクロナール抗体、及びBrdUの取りこみ実験により カタユウレイボヤの頭神経節の再生と変態後の発生の研究を行っている。 CiN1と名付けたモノクロナール抗体は頭神経節のニューロンを認識する。 一方、CiN2と名付けたモノクロナール抗体は一部の皮質に存在する巨大なニューロンのみを認識する。 再生過程において、CiN1陽性のニューロンは頭神経節の除去後、5−7日目現れ、Ci-N2陽性細胞は9-12日目に検出される。 第3のモノクロナール抗体であるECMは、細胞外基質の構成成分を認識する。 変態後の頭神経節の発生におけるCiN1とCiN2陽性細胞の時空間的な局在パターンは 頭部神経節の再生過程と同じパターンであった。 BrdUの取りこみ実験では、再生過程の頭部神経節に存在するニューロンがラベルされた。 これらのニューロンは再生過程の最初の段階で、細胞増殖により恐らく背索より生み出されるのであろう。 皮質に存在する巨大なニューロンはBrdUを取りこまなかったことから、再生過程よりも前に生み出されている。 この結果は他の細胞からの分化転換、もしくは長期維持される分化全能性の幹細胞の存在を示している。

2月4日

イトミミズの胚発生における、D割球による2次軸の誘導  

 Development. 2011 Jan;138(2):283-90. Epub 2010 Dec 9.

これまでにらせん卵割胚においてD割球が軸形成において重要な働きをしていることが知られており、オーガナイザーとして働いていることが示唆されていた。しかしながら、それを直接的に証明されてはいなかった。この論文では 貧毛類の環形動物であるイトミミズを用いてD割球の除去および移植実験を行い2dおよび4d割球が2次軸を誘導するオーガナイザーであること を証明した。また、このオーガナイザーは神経外胚葉組織の誘導能を持っていないことを細胞トレースにより明らかにし、このオーガナイザー がaxial organizerであることを示した。

ホヤ初期胚においてPOPK-1/Sad-1キナーゼは母性mRNAと生殖質の適切な集積に必要

Development 132, (4731-4742) 2005

卵の一部に局在を示す母性mRNAは多くの生物で胚の軸と胚葉の形成において重要な働きを持つ。ホヤの母性mRNAであり、筋肉の決定因子であるmacho-1 mRNAを含むType I postplasmic/PEM mRNAは受精卵の後方の植物極側の皮層に局在し、胚発生で重要な働きを担っている。本研究で、我々はマボヤ(Halocynthia roretzi)でキナーゼをコードする遺伝子であり、postplasmic/PEM mRNAの一つであるHr-POPK-1の機能を解析した。アンチセンスモルフォリノオリゴを用いてPOPK-1の機能を抑制した際、筋肉と間充織を形成しない形態異常を起こした。これはmaho-1遺伝子を欠損した胚と同様であった。さらに解析を進めたところ、POPK-1はmacho-1の上流で働くことが示唆された。POPK-1がノックダウンされた際に、macho-1を含む全てのpostplasmic/PEM mRNAの局在を調べたところ、初期の分布からその後に卵の一部に集積するまでの間、正常に局在が起こらなくなった。それによりmacho-1の機能障害が起きたと推測される。Hr-POPK-1やmacho-1を含むpostplasmic/PEM mRNAはcortical endoplasmic reticulum (cER)に存在し、受精後それと共に移動する。そしてこれらは卵割中の胚の後局にできる細胞内構造であるcentrosome-attracting body (CAB)に高濃度に集積する。POPK-1の機能を抑制することにより、後局に集積するcERの大きさが小さくなった。これによりPOPK-1はpostplasmic/PEM RNAの移動と共にcERの再局在化に関与している事が示された。また、CABも縮んだ。この結果から、Hr-POPK-1はcERが配置と集積する際に働いており、さらに後方の割球に位置する推定上の生殖質である、CAB物質の集積にも働いている。

2月18日

プログラム可能な多重蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法

 Nature biotechnology 2010 Nov;28(11):1208-12

in situ ハイブリダイゼーション法は、未処理の生体試料中のmRNA発現のマッピ ングを可能とする。現在の方法では、ホールマウントの脊椎動物胚の複数の標的 mRNAを同時にマッピングするのが困難であり、ヒトの発生および疾患との関係が きわめて深い系で相互作用する調節配列の研究にとって大きな制約となってい る。本論文では、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)による独立的な増幅 に基づく多重蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法を紹介する。この方法で は、標的mRNAに相補的なRNAプローブが連鎖反応を引き起こし、フルオロフォア で標識されたヘアピン RNAが自己集合して繋留蛍光増幅ポリマーを形成する。こ の増幅カスケードはプログラム可能で配列特異的なものであり、複数のHCR増幅 装置が同一試料中で同時に独立して作用することを可能にする。ゼブラフィッ シュ胚の固定ホールマウントおよび切片で5種類の標的mRNAを同時に画像化する と、強力な性能が発揮された。HCR増幅装置は、試料へ浸透性の高さ、シグナル 対バックグラウンド比の高さ、およびシグナル局在性の鮮明さを示した。

ホヤの細胞質移植された割球における核の可塑性とアルカリフォスファターゼの発現開始のタイミング

Dev Biol. 2001 Jun 15;234(2):510-20.

マボヤ(Halocynthia roretzi)の胚において、内胚葉決定因子を含む卵細胞質を予定筋肉割球または予定表皮割球に移植して部分胚を作製した。そして、内胚葉特異的なアルカリフォスファターゼ(ALP)活性の発現を3つの観点から調べた。初めに、細胞質を移植された割球の発生が進んだ際に異所的にALPの発現を示すかを検討した。その結果、既に筋肉または表皮に運命が決定された割球においても細胞質の移植によって細胞の運命が変更されることが分かった。次に、ALPと筋肉または表皮のマーカーとの二重染色によって部分胚の細胞分化を調べた。その結果、ALP陽性の領域と筋肉または表皮のマーカー陽性の領域は排他的な染色パターンを示した。これらの結果から、移植される側の割球で既に発現していた筋肉または表皮特異的な遺伝子の発現が異所的に形成された内胚葉細胞では抑制されていることが分かった。この結果から、ホヤ胚の発生過程で核が細胞分化に関して可塑性をもつことが分かった。最後の実験として、さまざまなステージの胚から単離された割球を組み合わせた部分胚でのALPの発現が開始するタイミングを調べた。その結果、ALPの発現が開始するまでにかかる時間は、移植する側またはされる側の発生開始からの経過時間よりも、細胞質移植が行われた時点からの経過時間に近いことが分かった。そのため、ALPの発現開始のタイミングを決める時計は細胞質が移植されてからの時間を計っていることが示唆された。この時間的制御の仕組みとして考えられるいくつかの仮説について議論した。

2月25日

性成熟した雄マウスのフェロモンESP1は雌の鋤鼻系の特異的な受容体V2Rp5によって認識され、雌のロードシス行動を誘起する

 Nature. 2010 Jul 1;466(7302):118-22.

マウスの社会行動は鋤鼻系(副嗅覚系)を介して働くフェロモンによって制御される。性成熟した雄マウスの涙にはESP1(Exocrine gland-secreting peptide 1:外分泌腺の分泌ペプチド1) という7kDaのペプチド(およそ60アミノ酸)が含まれており、雌マウスの鋤鼻器の感覚ニューロンを刺激する。この論文では、雌マウスの行動変化を誘発する、鋤鼻系におけるESP1シグナルの 伝達に関与する分子機構および神経機構について述べる。 ESP1は鋤鼻系の特異的な受容体V2Rp5によって認識される。リガンドと受容体の結合により、副嗅球を介した扁桃核と視床下部核への 性特異的なシグナル伝達が起こる。その結果、 ESP1は雄マウスのマウンティングを受け入れる行動(ロードシス)を雌マウスにとらせる。 V2Rp5欠損マウスでは、 ESP1による神経活動も性行 動も起こらない。これらの発見はESP1がマウス鋤鼻系の特異的な受容体を介して雌の生殖行動を制御する重要な雄フェロモンであることを示している。

dmrt1はホヤの前方神経版派生物の発生に必要である

Development. 2010 Jul;137(13):2197-203.

ショウジョウバエの性決定因子Dsxと線虫の性決定因子Mab-3の間に共通するDMドメインをもつ遺伝子群は Dmrt(doublesex and mab-3-related transcription factor)遺伝子ファミリーとして知られている。 筆者らはciona savignyiにおいてdmrt1のnull型突然変異体を作製し、その表現型を解析した。 その結果、表現型にばらつきがあるものの、大多数において入水孔原基と付着突起、及び眼点の欠損が認められた。 dmrt1は初期胞胚期から予定神経割球に限定して発現しているにもかかわらず、 初期尾芽胚まで異常は認められなかった。表現型が現れるのが想定よりも遅いこと、 及び表現型のばらつきは、dmrt1遺伝子に対する他の遺伝子転写産物の重複的な活性が示唆される。

3月11日

ショウジョウバエ初期胚におけるpiRNA経路を介した母性mRNAの脱アデニル化と分解

 Nature (2010) 467, 1128-1132

piRNA (Piwi-interacting RNA) は生殖系列特異的に発現する24〜30塩基長の small RNAである。piRNAはヘテロクロマチン形成やRNAサイレンシングを 介して転移因子の抑制を行っていると考えられており、生殖幹細胞の維持や 生殖細胞のDNAの完全性維持に必要である。この論文では、これまで 知られていた生殖系列における機能ではなく、ショウジョウバエ初期胚において piRNA経路が母性nanos mRNAの分解と翻訳抑制に関与していることを示した。 この機構は、nos 3' UTRに相補的なpiRNAを含むpiRNA経路構成因子に依存した CCR4によるmRNA脱アデニル化を介したものであった。

原始脊椎動物の脊髄における神経細胞サブタイプの決定

Development. 2011 Mar;138(5):995-1004.

運動神経節(VG)における各ニューロンを転写因子などを用いてラベルし、それぞれ一つ一つ異なるニューロンの形態観察を行った。 さらに、その上流にあると考えられるFgf8/17/18、Nk6を阻害することにより、これらがVGにおける各ニューロンのsubtype決定に関与していることを示した。

3月25日

Kinesin-1の尾部自己抑制領域および、微小管結合領域は細胞内輸送に機能し、卵質流動には関与しない。

 Development. 2011 Mar;138(6):1087-92.

キネシンヘビーチェイン(Khc)のN−末端の頭部ドメインは後生動物の発生において細胞質組織化の過程における微小管に沿った輸送における力を生産する事が知られているが、 C−末端の機能はわかっていない。それを知るため、筆者らはDrosophilaにおける尾部ドメイン変異体によるミトコンドリア輸送、ディターミナントmRNAの局在、そして細胞質流動への影響を調べた。 その結果、尾部の2つの生化学的限定分子、ATP依存的な微小管結合配列とIAK自己制御的モチーフ、が発生と生存のために必須である事がわかった。どちらの分子も卵母細胞でのミトコンドリアの 軸策輸送とディターミナントmRNAの局在において正の機能をもつ。これはその過程は個々のカーゴの偏った跳躍移動により達成されている。驚く事に、IAK自己抑制的モチーフがこれらの過程でキネシンの 通常の下方制御として働くわけではないことがわかった。タイムラプス撮影により、尾部領域は卵母細胞における速い細胞質流動、これは非跳躍容積輸送の過程でキネシン1が単独で働いている、には必要が ないことが示された。従って、Khc尾部はキネシン1の活性や強制的な伝達、そしてカーゴへの連結において恒常的に必要とされるわけではない事が示された。そして、この領域はモーター制御に関わる微量な因子 とstep and go movement の際の偏った跳躍輸送において重要な役割を担っているのではないかと考えられる。

速い進化速度をもつワカレオタマボヤから明らかにされた動物ゲノムの構造の可塑性

Science (2010) 330, 1381-1385

海綿とヒトほども離れている動物のゲノムを比較しても、大きなレベルで見ればゲノ ムの構造には保存性・共通点が認められる。この保存性が動物にとって必要なもので あるかどうかが議論すべきポイントである。今回、脊椎動物の直接の姉妹群である脊 索動物・尾索動物に属するワカレオタマボヤOikopleura dioica のゲノム配列につい て、トランスポゾンの多様性、発生関連遺伝子のレパートリー、物理的な遺伝子の位 置関係(シンテニーを含む)、イントロンとエキソンについて解析を行った。ワカレ オタマボヤのゲノムはこれらの情報について、他の動物のゲノムの有する特徴と大き く異なっていた。このことは、祖先型動物のゲノムが有していた特徴を大きく改変し ても後生動物、もっと言えば脊索動物としての特徴を有する生物を作り出すことは十 分可能であることを意味している。ワカレオタマボヤの含まれる系譜は進化速度が速 いことが示唆されているが、この進化速度が速いゲノムの解読から、ゲノム構造の可 塑性についてこれまで分かっていなかった知見が得られたということである。また同 時に、イントロンがどのように獲得されたかについて、そのメカニズムについても考 察する。

4月15日

アポトーシスした細胞から分泌されたWnt3シグナルはヒドラの頭部再生を誘導する

 Developmental Cell 2009 Aug;17(2):279-289.

頭部を切除されたヒドラは形態調節(morphallaxis)によって明白な細胞増殖や間質幹細胞を必要とせずに頭部を再生する。実際に間質幹細胞を欠くヒドラは安定に再生することができ、表皮細胞が分泌するWnt3は頭部の再生を引き起こす。しかし今回の研究では、体の中ほどを切断した際に起こる再生がこれとは異なるメカニズムで起こることを発見した。この場合、頭部が再生する部位でアポトーシスとWnt3の分泌が素早く誘導された。このアポトーシスはWnt3の産生と頭部の再生に必要十分であった。さらに、アポトーシスが起こる領域のすぐ下の領域では細胞増殖が誘導され、ショウジョウバエでみられるアポトーシスした細胞によって誘導される補償的な細胞増殖と類似していることが分かった。これらの結果から、種類の異なる損傷はそれぞれに特有のメカニズムによって再生を誘導するが、それにもかかわらずWnt3が中心的な役割を果たすという共通点をもつことが分かった。

nodalシグナリングによる脳胞の左側におけるRx遺伝子の抑制は右側のocellus色素細胞の形成に必須である

Developmental Biology 2011 Mar 21

nodalシグナリングは様々な動物において左右非対称性の獲得に重要な役割を果 たす。しかし、どのようにしてnodalシグナリングが左右非対称形態の獲得に関 与するのかはほとんど分かっていない。この論文では、カタユウレイボヤの左右 非対称性ocellus形成におけるnodalシグナリングの役割について論じる。 カタユウレイボヤの発生過程において、ocellusの色素細胞は正中線で形成さ れ、正中線の右側に移動する。その後、脳胞の右側で視細胞が形成される。 Ci-Nodalは尾芽胚期では脳胞の左側で発現している。nodalシグナリングが抑制 されるとき、ocellusの色素細胞は正中線に残り、ocellusの視細胞のマーカー遺 伝子発現は、幼生の脳胞の右側と同様に左側でも異所的に認められる。さらに、 ocellusの分化に不可欠であるCi-Rxは、たとえ右側で視細胞が形成されるのに必 要であっても、脳胞の左側でのnodalシグナリングによりネガティブな調節を受 けることが分かった。 これらの結果は、nodalシグナリングがカタユウレイボヤの発生における左右非 対称なocellus形成をコントロールしていることを示す。

4月22日

ショウジョウバエの外生殖器形成におけるアポトーシスの役割

 Development. 2011 Apr;138(8):1493-9. Epub 2011 Mar 9..

筆者らは組織形成過程におけるカスパーゼの生理的役割を探索するために、 カスパーゼ阻害遺伝子p35の強制発現にお けるショウジョウバエ成虫の表現型を解析した。その結果雄性外生殖器において 外生殖器自身の形態には全く異常がないものの、外生殖器の角度が異常になると いう表現型が見られた。正常なショウジョウバエの雄の外生殖器の形成過程では 360度回転する過程がある。この回転は外生殖器の外側を囲 むA8体節細胞が'動く歩道'のように外生殖器を乗せて回転を始めることによってよ り加速される。アポトーシスの開始のタイミングがA8体節細胞の回転の開始と一 致すること、及びアポトーシスを阻害するとA8体節細胞の回転が阻害され外生殖器の角度が異常 になることから、アポトーシスは外生殖器の回転を加速させ、限られた時間内で外生殖器が正 常な角度に働いていると考えられる。

尾索類卵の減数分裂の回数はMosによって規定される

Development 138, 885-895 (2011)

Mosキナーゼは卵母細胞が減数分裂によって成熟する際の一般的なメディエーターであり、卵形成時に合成され受精後に分解される。母性の減数分裂の特徴は、2回の非対称細胞分裂を誘導する2つ の連続したM期(第一、第二減数分裂)である。しかしながら、どのようにして卵の減数分裂の回数が2回に規定され、その結果DNAの異数性を抑制するのか、についてはよく分かっていない。この 論文では、尾索類の卵においてはMos / MAPK活性の消失が第三減数分裂への移行を抑制するのに必要であることを示した。注目すべき点としては、受精後にほぼ生理的なレベルでMos / MAPK経路 活性が維持されることにより、減数分裂のM期(第三、第四、第五減数分裂)の追加周期が誘導される。これらの減数分裂の追加周期では、紡錘体は結果として非対称細胞分裂になるような位置に 認められる。加えて、Mosで減数分裂の終了を阻害すると、ホヤにおける減数分裂の周期の特徴である前核形成やサイクリンAの蓄積を阻害し、精子によって誘発されるCa2+オシレーションを維持 してしまう。尾索類において減数分裂の回数を制御するMosがホ乳類においても同様に働くことができるかどうか興味深い。これらの結果は、卵から胚への移行を分析するためのモデルとしての尾 索類卵の有用性を示すものである。

5月19日

nebulin及びN-WASPはIGF-1によって引き起こされるサルコメアのアクチン繊維の形成を促す

 Science. 2010 Dec 10;330(6010):1536-40.

インスリン様増殖因子(IGF1)は骨格筋の成熟と肥大を誘導する。これらの反応 はタンパク質の合成と筋原線維の形成が必要である。しかし、筋原 線維の形成 のシグナル伝達機構は全く不明であった。筆者らはマウスにおいて、IGF1によっ て活性化されるPI3K-Akt径路がGSK3Bを抑制することにより、筋原線維のZ帯に おいてnebulinとN-WASPの複合体を形成させることを見出した。N-WASPはArp2/3 を活性化して、枝分かれしたアクチン繊維を形成することが知られていたが、 nebulinとN-WASPの複合体はZ帯においてArp2/3に非依存的 にアクチン重合核を 形成し、枝分かれのないアクチン繊維を形成した。さらに、N-WASPはIGF-1によっ て誘導される骨格筋の肥大に必要であった。これらの結果から、IGFによって誘 導される骨格筋の成熟と肥大に必要である筋原線維形成におけるアクチン繊維の 形成機構、及びアクチン重合核の形成機構が明らかとなった

雌雄同体の脊索動物(ホヤ)における自家不稔性の機構

Science. 2008. 320(5875), 548-550.

雌雄同体の生物の多くは自家不和合性(SI)システムによって自殖を防いでいる。 カタユウレイボヤの自家不和合の現象は古くから知られているが、その分子機構は 明らかになっていなかった。本論文ではポジショナルクローニングによって、 カタユウレイボヤのSIシステムが2つの遺伝子座によって支配されていることを 突き止めた。両遺伝子座には共通して、非常に強固に連鎖したポリシスチン1様受容体 (s-Themis)とフィブリノーゲ ン様タンパク質(v-Themis)の遺伝子が存在していた。 これらの遺伝子はそれぞれ、s-Themisは精子側、v-Themisは卵(卵膜)側の 自己識別分子をコードしていると考えられる。

5月27日

神経上皮細胞におけるNotchシグナルの2つの役割

 Neuron 69, 215-230 (2011)

神経上皮幹細胞の細胞分裂は脳室のapical area(つまり脳室側)に限られて生じる ことが知られているが、細胞分裂がどのような仕組みでその領域に制限されてるのか は不明である。今回はそのメカニズムをゼブラフィッシュを使った解析で示してい る。ゼブラフィッシュのmosaic eye (moe)変異体では、putativeなadaptor protein であるMoeと、apicobasal極性の制御因子であるCrumbs (Crb)の相互作用が異常にな り、また神経上皮組織のapicobasal極性が維持されなくなる。CrbはNotchと直接相互 作用し、Notchの機能を阻害する。その一方でMoeはCrbによるNotch阻害効果を打ち消 す働きを持つ。Moe変異体の後脳ではNotchの活性が大きく減少し、またapical area から離れた(basalに近い)領域で分裂する細胞が増加する。驚くべき結果として は、Notch活性をMoe変異体内で上昇させた場合に、basal areaでの細胞分裂という表 現型を回復しただけでなく、神経上皮のapicobasal軸が回復することである。一連の 実験からCrb-Moe複合体とNotchパスウェイが、神経上皮のapicobasal軸の維持と apical-high, basal-lowというNotch活性の勾配の2つに対して正のフィードバック ループを形成していること、そしてそれらのパターンが維持されることがapical areaに制限された細胞分裂に必要であることを示した。

Plk1はPEMのCABへの移動と不等分裂に必要である

Development, Growth & Differentiation

ホヤ卵では、卵の後極に局在を示す母性因子であるPosterior End Mark (PEM)が不均等な細胞分裂や遺伝子発現による胚の前後軸に沿ったパターニングに関与している。しかしながら、PEMは胚発生において重要な役割を担っているが、PEMは知られている機能ドメインを持たないためその作用機構はまだ分かっていない。本研究ではyeast two-hybridスクリーニングを用いてマボヤのPEMのパートナータンパク質の候補を捜索した。それにより真核生物で広く保存されており細胞分裂の制御因子として知られるPolo-like kinase 1(Plk)がPEMに結合するパートナータンパク質の可能性が高いことが分かった。筆者らは生化学的にPEMとPlk1間の相互作用を検証した。免疫染色によりPlk1タンパク質は後極にあるcentrosome-attracting body(CAB)に集まることが示された。この領域はPEMが局在を示す領域でもある。CABは後方の卵割パターンを発生させる重要な細胞内構造である。Plk1のCABへの局在は不等卵割が起こる際の細胞周期フェーズに依存している。Plk1の阻害は核の後極への移動とCABと中心体の間の微小管束の形成が起こらなくなる。これはPEMの機能を阻害した場合と似通っており、両方のタンパク質が不等卵割の同じ機構に関与している可能性が示唆された。さらに核の後極への移動が阻害される現象はPEMを過剰発現させることで回復が可能だった。Plk1が阻害された胚では、PEMのCABと中心体への局在が阻害された。これによりPEMが正常に局在を示すためにはPlk1が必要であることが示された。

6月3日

beta-cateninは中内胚葉を分化させ、外胚葉の後方化を導く

 Development 2011

Wnt/beta-catenin経路はボディプランの形成や軸の形成に関与する重要な経路で あり、広く後生動物で保存されている。多くの動物で の実験結果からbeta- cateninの共通した機能として胚の植物極/後方の決定がある。しかしながら、植 物領域の形成は示されているもの の、胚の後方決定については脊索動物及びプ ラナリアのみである。 ここで、進化的なbeta-cateninの機能に対するより深い洞察を得る為に我々は直 接発生型のギボシムシであるS. kowalveskiiの初期発生についての研究を行っ た。この胚は受精後にホヤ類で見られるものと似た細胞質再配置を行うことで動 植軸に沿った極性化を 行う。この早期非対称性は植物極でのbeta-cateninの核 への移行につながり中内胚葉の決定に関与している。また、中内胚葉の決定が外 胚 葉における前後軸の形成に必要である。中内胚葉は未特定のシグナル分子を 分泌し外胚葉の後方化を行う。これらの結果は新口生物の胚葉形成における beta-cateninの保存された機能と、中内胚葉からの後方化シグナルによる外胚葉 の後方の決定に関する因果関係を明確に示している。この ため、胚のbeta- cateninによる植物極化と後方化については区別し、慎重に再確認するべきだろう。

ホヤ幼生における段階的な筋肉活動は筋肉におけるアセチルコリン受容体のチャネル孔の特徴による

Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Feb 8;108(6):2599-604

カ タユウレイボヤ幼生の運動器官である尾部はわずか36個の横紋筋により構成されており、 体節構造は有していない。しかしながら、ホヤ幼生 は脊椎動物のオタマジャクシのように遊泳することが 可能である。ホヤ幼生が単純な体制でどのようにして洗練された運動制御を行っているの かは不明である。 筆者らは、カタユウレイボヤ幼生の筋収縮は多様で、感覚入力により変化することができ、 そのため神経筋伝達が多様な神経 入力を段階的な筋肉活動へと変換することが可能であることを明らかにした 。筆者らは神経筋シナプスにおけるニコチン性アセチルコリン受容 体の分子特性について解析を行った。 アフリカツメガエル卵母細胞にニコチン性アセチルコリン受容体を発現させたところ、ホヤのニコチン性 アセチルコリン受容体は筋肉タイプではなく、向き整流性で高いCa透過性を持つと いう脊椎動物型の神経タイプ のニコチン性アセチルコリン受容体に似た性質を示した。この性質は脊椎動物のc, e サブユニットに相当する BDE3のチャネル孔領域の変異によって消失した。In vivoでBDE3を 変異型のものと入れ替える実験を行ったところ 、変異型BDE3を発現する幼生は段 階的な運動制御を失い、散発的な屈曲が見られた。ホヤにおける段階的な興奮 と収縮のカップリングはチャネル孔の特徴によるものであり、こ れにより洗練された運動制御を可能としている。

6月17日

ウニ胚の卵割進行におけるVasaの機能

 Development. 2011 Jun;138(11):2217-22. Epub 2011 Apr 27.

Vasaは刺胞動物からホ乳類にいたる生物の生殖系列において働くATP依存性RNAヘリカーゼで 広く保存されている。面白いことに、Vasaは多くの動物の体細胞にも存在し、多能性細胞の レギュレーターとして働く。本論文で我々は、ウニ胚におけるVasaの細胞分裂に関する機能を 明らかにした。 まずVasaタンパク質がウニ初期胚の全ての割球に存在し、細胞周期に伴ってその存在量が増減 することを発見した。Vasaは分裂中期に紡錘体や姉妹染色分体の分離に関与し、分裂終期後に 急に消失する。Vasaタンパク質の合成を阻害すると、適切な染色体の分離が妨げられて細胞が M期でアレストされ、細胞周期の進行が全体的に遅れる。 Cdk活性がVasaの適切な局在に必要であることから、サイクリン依存的な細胞周期ネットワーク にVasaが関与すると考えられる。またVasaはサイクリンB−mRNAの効率的な翻訳に必要である。 本論文の結果より、生殖系列の分化における機能とは別の、Vasaの進化的に保存された役割が示唆される。

脊索誘導に対する応答能の消失はFoxBによって引き起こされる

Development. 2011 Jun;138(12):2591-600.

マボヤの胚では、単離された予定脊索割球が繊維芽細胞増殖因子(FGF)に対して応答して一次脊索が誘導される。 この際の予定脊索細胞のFGFシグナルに対する応答能(competence)は32細胞から64細胞になる卵割から1時間で消失することが知られている。 本論文ではこの応答能消失の仕組みを分子レベルで解析し、新たな仕組みを明らかにした。 具体的には、Forkheadファミリーの転写因子FoxBが、FGF/MAPK経路による脊索特異的な Brachyury遺伝子の発現誘導を抑制するために重要な役割を果たすことを発見した。 これは、他の動物で報告されている応答能消失のメカニズムとは異なり、 FGF経路を構成する因子とそれらの活性は失われていないようだ。 FoxBを機能阻害された単離割球では応答能がより長い間持続し、 本来なら応答能が失われる時期になってもFGFに応答してBrachyury遺伝子の発現を誘導することができた。 さらに、FoxBはBrachyuryのシス制御領域に直接結合することによって転写抑制因子として機能する 。これらの結果から、FoxBは、脊索の誘導が完了した段階において、神経索になる運命の細胞において 異所的な脊索運命の誘導を防ぐことが分かった。このような制御には、FGFシグナルそのものは利用可能にしておいたままで、 同一の細胞系譜においてさらに後の発生過程で他の目的のためにFGFシグナルを再利用できるという利点がある。神経索において 時空間的に制御されたFoxBの発現はZicNによって、またはFGF/MAPK経路の阻害によって促進された。

6月24日

Tbx6に依存したSox2の調節が体軸幹細胞の神経系と中胚葉への発生運命を決める

 Nature. 2011 470(7334): 394-8.

従来の三胚葉説では、胚はまず外胚葉・中胚葉・内胚葉に分かれる。細胞運命は それぞれの胚葉性へ限定され、その後に各胚葉ごと更なる運命の限定が進んでいく (たとえば神経系は外胚葉から表皮と分離して生じる)と言われている。一方で、 最近の細胞系譜の追跡実験結果から、尾部神経板と沿軸中胚葉は"共通した" 尾側方の胚盤様上層に由来する体軸幹細胞(axial stem cells)より生じることが 示されている。また、Tbx6変異体のマウス胚では、沿軸中胚葉に代わり異所的な 神経管が形成されることが知られている。本研究では、Tbx6とSox2という2つの 転写因子の力関係によって、体軸幹細胞が神経系か沿軸中胚葉かの運命選択を 行っていることを示している。これは、Sox2の尾部神経系のエンハンサーN1の 活性を、中胚葉領域へ移動した細胞ではTbx6が(間接的に)抑制することで制御する 機構であった。

カタユウレイボヤにおけるMAPKシグナリングを介したプログラム細胞死

Developmental Dynamics 230:251-262,2004

ホヤの一種であるカタユウレイボヤのプログラム細胞死(PCD)について、 初期幼生から幼若 体までTUNEL法によって研究した。遊泳幼生期にはPCDが体幹 部 の間充織細胞と中枢神経系(CNS)で生 じ、変態中では広範囲の領域でPCDが認め られ、 幼若体では発達中の器官に制限されてPCDが認め られる。幼生のCNSにおける細胞死と細胞分裂のパターンは、 成体 のカタユウレイボヤの脳の形式について古いモデルを疑問視するような結果となった。 MAPK、MEKK1、MEK1/2、JNK、dpERK1/2の抗体 染色と機能解析を行うことにより、 幼生の脳が神経系を生み出す能力はMAPKシグナ リングカスケードによってのPCDの制御 に依存するらしいことが示唆された。これらの結果により、尾索類でのPCDは、成 長とパターニング においていろいろな機能を持っていると考えられる。

7月8日

脊椎動物運動ニューロンの脊椎動物以前の起源

 Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Jun 6;103(23):8727-32. Epub 2006 May 30

脊椎動物の頭部は感覚ニューロンと運動ニューロンから神経支配を受けている。感覚ニューロンは神経幹細胞と神経堤細胞から生じ、これが脊椎動物において頭部で摂餌、呼吸をするのに革新的な進化的意味をもつ一方で、脊椎動物の後脳に存在し、頭部を動かす運動ニューロンについてはその系統発生的起源が分かっていない。本研究では、カタユウレイボヤの脳の運動ニューロンで脊椎動物の鰓内臓の運動ニューロンに限定して発現する遺伝子(Phox2a/2b、Tbx20)のオーソログであるCiPhox2とCiTbxの発現が示された。また変態後のカタユウレイボヤの運動ニューロンは、幼生時には機能を持たない後脳(脳胞の後ろ側)から生じ、またその部分で、脊椎動物での後脳をマークしている遺伝子(Phox2a/2b、Hox1)のオーソログであるCiPhox2とCiHox1の共発現があることが示された。以上のことから変態後のカタユウレイボヤの脳と脊椎動物における後脳が一致し、その進化的起源が明らかにされた。

7月22日

microRNAのエピジェネティックな制御の特定と機能解析

 PLoS One. 2011;6(6):e20628. Epub 2011 Jun 16.

異常なmicroRNA (miRNA)の発現は複数のヒトのガンの発生と進行に関与しており、そのような失調症はDNAのメチル化に異常が起こった結果である。少数の miRNAsはDNAのメチル化によって制御されていることが知られており、筆者らはこのようなエピジェネティックな制御は他にもあると仮定している。ゲノムワイドなDNAメチル化のパターンをMBD-isolated Genome Sequencing (MiGS)を用いて確認し、マイクロアレイによる解析でmiRNAの発現レベルを測定した。そしてDNAのメチル化により調節を受けている結腸直腸癌の培養細胞でのmiRNAの候補を捜索した。その結果、HCT116細胞で、64のmiRNAが強くメチル化を受けていることが分かった。そのうちの18個はインプリンティング領域に存在するかDNAのメチル化による制御を受けることが広告されている。そして残りの46 miRNAのうち、18個はDNAのメチル化による発現への影響がなかった。最後に新しく8個のmiRNAがDNAのメチル化によって制御されていることが分かり、これらは上方制御を受けていることが5-aza2'-deoxycytidine(DNAメチル化阻害薬)処理により明らかになった。さらに、筆者らはこれらのエピゲネティックにサイレンスを受けたmiRNAsの機能的な関連を調べるため、異所的な発現を示す候補を調査し、その結果、癌細胞の成長と遊走が抑制されていた。これらの発見に加え、筆者らの研究からDNAのメチル化プロファイルと発現データを組み合わせることによるシステマティックな方法がDNAのメチル化によって制御されるmiRNAsの同定に有効であることが示された。

脊索動物の運動神経分化における多様性

Development 2011

カタユウレイボヤは脊索動物の姉妹群である尾索動物に属し、幼生期には脊索動 物と同様のボディプランを持つ。 今回我々は脊索動物の運動神経分化において重要な役割を担うシグナル分子であ るSonic hedgehogとBMP2/4がカタユウレイボヤの運動神経分化においてどのよう な役割を担っているのか割球分離や遺伝子操作法を用いて解析を行った。 脊椎動物においてsonic hedgehog は運動神経の分化を促し、BMP2/4は逆に運動 神経の分化を阻害する。 カタユウレイボヤにおいてsonic hedgehogは脊索や底板から分泌され、BMP2/4は 神経板の背側側方から分泌されることが知られており、運動神経の分化に関与し ていることが示唆されていた。 しかし、本研究により、hedgehogを発現する腹側の細胞系統及び、BMP2/4シグナ ルは運動神経の形成においてそれほど重要な役割を担っていないことが明らかに なった。 さらにBMP2/4の過剰発現は運動神経の異所的発現を誘導し、脊椎動物における BMP2/4と全く逆の作用を示した。 これらの結果からカタユウレイボヤは進化の過程でBMP2/4による運動神経の分化 制御を抑制から冗長的な促進へと変化させたのだと考えられる。

9月9日

ショウジョウバエの組織成長の協調にはp53に依存した仕組みが関与している。

 PLoS Biol. 2010 Dec 14;8(12):e1000566.

組織間、あるいは組織内の各領域の成長は協調しており、これにより均整のとれた器官と機能的に調和のとれた成体がつくりだされる。近年の研究から、異なる器官の間の成長を協調させる仕組みの解明が始まっている。しかし、器官が発生や環境のストレスによって引き起こされる局所的な成長のばらつきに対して協調的に応答できるのかどうかや、均整のとれた成体器官をこのような状況下でつくりだす仕組みは大部分がまだ分かっていない。 本研究では、ショウジョウバエの翅原基の特定の領域の成長速度を減少させることによって、翅原基が組織全体として応答して、隣接した細胞集団が成長と細胞増殖を減少させることを示す。この非自律的な応答はどの領域の成長が阻害されたかによらず、発生過程を通して機能しており、成体の均整のとれた構造をつくりだすのに重要である。この過程では、特にp53とアポトーシスが中心的な役割を果たす。成長を阻害された領域でのp53の活性化は隣接する領域において非自律的に成長と細胞増殖率を制御し、実行カスパーゼはp53の下流で隣接する組織での細胞増殖の抑制という特定の役割を担うことが明らかになった。これらの新しい発見は、ストレスに応答して隣接する組織間の成長を協調させる仕組みの存在を示唆し、組織の大きさと細胞増殖は分離可能で、p53によって独立にかつ非自律的に制御されていることを示唆する。

ホヤの胚発生における組織特異的な細胞分裂回数の調節

Dev Biol. 2011 jul

多細胞体を構成している細胞の数がどのように制御されて決まっているのか、その仕組みは不明である。この問題についてマボヤを用いて取り組んだ。マボヤでは受精後オタマジャクシ型幼生になるまでに、各組織の細胞が平均して11回の分裂を経験することが分かっている。しかしながら厳密にはその分裂回数は組織毎に異なる。例えば脊索細胞は9回の分裂の後、細胞分裂を停止させる(平均よりも2回少ない)。64細胞期にそれぞれの割球を単離した場合、各割球は組織毎に異なる回数の細胞分裂を進めるが、その際の細胞分裂回数は正常な胚で認められる組織毎の分裂回数と一致している。つまり細胞分裂回数は64細胞期には組織毎に自律的に決まっていることを表している。脊索、神経、筋肉、間充織のそれぞれの細胞について、FGFシグナリングを不活性化もしくは活性化させることでその運命を別の細胞タイプへと変化させた場合、細胞分裂回数は変化後の運命に従う。FGFシグナルの下流で脊索の運命決定に必須の働きをする転写因子、Brachyury (Bra)の機能阻害と強制発現の実験から、Braが脊索細胞に特徴的な細胞分裂回数の決定(つまり9回目での停止)に働いていることが明らかとなった。またBraの発現時期を正常な脊索細胞よりも早めても、細胞分裂の停止は9回の細胞分裂の後であり変化はなかった。このため細胞分裂の停止時期については9回と決めている仕組みがあり、Braはその仕組みを乱す(停止を早める)ことはできないことが判明した。

9月16日

ウイルスベクターを用いたクローン解析によるゼブラフィッシュ神経幹細胞の同定とその運命の特定

 Development. 2011 Apr;138(8):1459-69. Epub 2011 Mar 2

ゼブラフィッシュの成魚の脳では、活発な前駆細胞の維持によって神経形成が広い領域で見られる。どの特性が前駆細胞として広い範囲での 増殖能があることと関連しているかを明らかにするために、筆者らは、GFPを組み込んだレトロウィルスとレンチウィルスを使用して、成魚のゼブラフィッシュの脳で神経前駆細胞の形成過程の 追跡を可能にする方法を確立した。ゼブラフィッシュの終脳は細胞分裂を滅多に生じないの神経放射状のグリア前駆細胞と活発に分裂して いる神経前駆細胞で構成されている。ウィルスを使って行ったクローン解析を利用して、筆者らはこれらの前駆細胞が異なる分裂パターン と運命を持つことを示した。また、neuroblastは限られた時間の中でのみ分裂し、その娘細胞の性質は同じであった。対照的に、放射状のグリアは細胞レベルで自己 複製能と多分化能を持ち、ゆえに、本物の神経幹細胞(NSC)の特徴を示した。筆者らはまた、放射状のグリア細胞が主に対称的なグリア細胞を作る分裂を起こすことを示した が、そのことはNSC集団を増加させ、NSCが長く維持されることを説明できると示した。筆者らはさらに、Notchシグナルを遮断すると、増殖細胞とクローンの数を著しく増加させるが、クローン中の細胞タイプの組成には影響しな いことを示し、Notchは細胞の運命よりむしろ主に増殖をコントロールすることを示した。長期の細胞の追跡実験を通して、筆者らは新生 ニューロンが成魚の前脳の神経回路網にどのように組み込まれて、機能を発揮するかを説明した。これらの結果は、成魚の前駆細胞と神経 発生の基礎的な面を特徴づけ、ゼブラフィッシュの成魚の脳においてウィルスを用いた安定的な遺伝操作とクローン解析の方法を開発した ことを示している。

Ci-Pem-1はホヤの生殖細胞の核に局在し、体細胞遺伝子の転写を抑制している。

Development. 2011 Jul;138(14):2871-81.l

多くの動物で、生殖細胞の形成は生殖質に局在する母性因子に依存している。生 殖細胞を確実に形成させるためには、生殖細胞になる細胞は体細胞への 分化を 妨げられなければならない。このための普遍的な機構としては体細胞遺伝子の転 写を積極的に抑制されなければならない。種特異的な生殖質因 子、例えば、 ショウジョウバエのPgcや線虫のPIE-1、は一般的な転写機構を阻害することで生 殖細胞を形成している。カタユウレイボヤにおい ても、生殖細胞系列における 転写抑制が考えられているが、その因子や機構は不明である。我々は生殖細胞系 列に局在するCi-Pem-1 RNAのたんぱく質が生殖細胞割球の核に局在することを見 出しした。MOによるCi-Pem-1のノックダウンは本来抑制されている体細胞遺伝子 の発現を 生殖細部割球においてもたらした。Ci-Pem-1ノックダウン胚におい て、b-cateninとGATAa依存的な遺伝子の発現が生殖細胞割球 で見られた。これ はCi-Pem-1が幅広く転写抑制を行っていることを示唆している。免疫沈降法に よってCi-Pem-1がmRNAのco- repressorである2つのGrouchoホモログと相互作用 できることが明らかにされた。これらの結果はCi-Pem-1が生殖細胞形成中 にお いて体細胞遺伝子の転写を抑制するたんぱく質であることを示している。そして この抑制はCi-Pem-1とGrouchoとの相互作用によっ てもたらされているだろう。

10月7日

神経分化におけるphox2の長期的な発現の役割

 Development 137, 4211-4220 (2010)

神経分化におけるphox2の長期的な発現の役割 神経分化において、神経のidentityを決める転写院試の一部は下流の遺伝子発現が開始した後でも、発現し続けることがわかっている。しかしその発現の意味や機能については謎のままである。 本論文では顔面の運動を司るBM/VM(branchialmotor, vicseralmotor )ニューロン、またノルアドレナリン作動性ニューロンである交感神経における、運命決定後のPhox2a/bの長期的な発現に着目し、 神経前駆細胞の運命決定後にPhox2をノックアウトすることでphox2bが有糸分裂後の咽頭弓運動ニューロン前駆体の分子シグナルの維持に必要であり、神経前駆細胞の移動と神経核の組織形成を可能にすることが示された。ノルアドレナリン作動性神経(交感神経)の分化維持においては交感神経節でのPhox2b、ノルアドレナリン性神経核(LC)でのPhox2aの持続的な発現が必要であることが示された。

個々の細胞骨格群および広範囲なクロストークはカタユウレイボヤの脊索管形成をコントロールする。

Development 138, 1631-1641 (2011)

細胞伸長は細胞や組織を新しい形態・機能に適合させる基本的な過程である。カタユウレイボヤでは脊索管形成の際に、個々の細胞の劇的な伸長によって脊索が長くなり、結果として胚全体も 長くなる。この過程において、前後軸方向に垂直な向きの各脊索細胞の真ん中(細胞の赤道面)に、新規の動的アクチンおよび非筋繊維性のミオシンIIによる細胞収縮を発見した。 アクチン 重合およびミオシンII活性の両方が細胞収縮や伸長には必要である。細胞収縮におけるミオシンIIの不連続な局在から、この局所的な収縮をアクトミオシン・ネットワークが作り出しているこ とが示される。 これにより細胞伸長の新規機構としての、アクトミオシン・ネットワークによる基底部の収縮が明らかにされる。 細胞伸長に続いて、脊索細胞は間充織上皮移行によって上皮化が進行し、反対端のそれぞれ(脊索細胞どうしの隣接面)で頂端部を形成する。そして細胞外内腔が頂端表面に形成される。 表 層アクチン、およびカタユウレイボヤのezrin/radixin/moesin (ERM) が内腔形成には必須であり、微小管の極性ネットワーク(内腔発生に働く)がapical cortexにおいてアクチン依存的に生 ずることを明らかにした。脊索管形成の後期には、脊索細胞が脊索鞘上で2方向性の回転運動を始める際に、微小管ネットワークは90度回転し、牽引性の葉状仮足の先端へ伸びる並列の束とし て組織されるようになる。この過程はアクチンに基づく細胞突起やそれに続く内腔融合の正確な編成に必要である。 まとめると、脊索管形成へのアクトミオシンと微小管ネットワークの重要な役割を同定し、これらの2つの細胞骨格コンポーネント間の広範囲なクロストークおよび制御を明らかにした。

10月14日

低毒性を実現した人工ヌクレアーゼによるゲノム編集法

 Nucleic Acid Research, 2011 1-11

ZFNと共に注目を集めている人工ヌクレアーゼTALENについて、その機能に必要な ドメインの探索、及びDNA切断活性についてin vitroと培養細胞を用いて検証し た。さらにZFNとの比較による活性と毒性についても検証した。

原始的脊索動物におけるアロ認識は独立した2つの経路からなる

Immunity 34, 616-626. (2011)

群体ボヤBotryllus schlosseriの群体癒合性は、単一の遺伝子(fuhc)の 多型によって支配されている。また、多型性の候補受容体(fester)は、 適合反応の開始とfuhcアレル間の認識の両方で機能していると考え られている。本論文では新たな関連因子としてuncle festerを報告する。 uncle festerは多型性ではないが、festerと共発現しており、festerとは 異なる機能を有している。機能阻害の結果から、uncle festerは群体間の 非癒合反応には必要であるが、癒合可能な場合の癒合反応には 関わっていないことが示された。これらのことから、Botryllusのアロ認識は 「癒合をコントロールする経路」と「拒絶をコントロールする経路」の2つの 独立した経路からなることが示唆された。

10月28日

マウスES細胞を神経系へと運命づける仕組み

 Nature. 2011 Feb 24;470(7335):503-9. Epub 2011 Feb 16.

ES細胞を血清や増殖因子などの外部からの刺激がない状態で培養すると、神経系の細胞に分化することが知られている。 このことからES細胞には内在的に神経系へと分化する能力が備わっていると考えられる。しかしながらその仕組みについてはほとんど明らかになっていない。 今回筆者らはzfp521(zinc-finger protein 521)がES細胞を神経系へと分化させるのに必須であることを突き止めた。zfp521はp300と結合し初期神経遺伝子を活性化させることでES細胞を神経系の細胞に運命づけていた。

カタユウレイボヤにおいて母性で働くCi-p53/p73-a and Ci-p53/p73-bはZicLの発現を調節し、脊索の分化を調整する

Dev Boil. 2011 Sep 9

未受精卵と32細胞期の胚でのトランスクリプトームの中から急速に減少する母性mRNAを比較したマイクロアレイスクリーニングを用いて、p53のカタユウレイボヤのホモログであるCi-p53/p73-aを単離した。卵での発現量が多く、胚発生が進むにつれ発現量が減少することはWISHと定量PCRによって確認された。卵や初期胚では発現は偏在的であった。Ci-p53/p73-aのMOを顕微注入することでノックダウンすると原腸陥入時の細胞移動と脊索のマーカー遺伝子の発現が乱れる。カタユウレイボヤの脊索の分化制御において重要な因子はBrachyury (Ci-Bra)であり、この遺伝子の発現はZic-like遺伝子(Ci-ZicL)を直接アクティベートする。Ci-p53/p73-aをノックダウンした胚でのA-line脊索前駆細胞でのCi-ZicLの発現とCi-Braの発現は下方制御を受けている。このCi-p53/p73-aのホモログであるCi-p53/p73-bの母性の発現も検出された。Ci-p53/p73-bをノックダウンした胚では、原腸陥入の細胞移動、A-lineの脊索前駆細胞でのCi-ZicLとCi-Braの発現、そしてlater stageでの脊索マーカー遺伝子の発現が異常になった。Ci-ZicLの上流領域には推測されるp53の結合領域がある。Ci-ZicLのシス制御解析によりこれらの領域は32細胞期と初期原腸胚でのA-lineの脊索前駆細胞でのCi-ZicLの発現に関与している事がわかった。これらの結果によりp53遺伝子はカタユウレイボヤにおいてCi-ZicLの発現を制御する事によりA-lineの脊索の分化において重要な役目を持つ母性因子である事がわかった。

11月4日

ショウジョウバエはどのように温度を感受するか

 Cell 144, 614-624 (2011)

温度を感じることは生物にとって大変重要な感覚受容である。この論文ではショウジョウバエがどのように温度を感受するかについて研究している。 まず筆者らは、ショウジョウバエの触角で低温を感受するのに働くTRPチャネルタンパク質とそれをコードする遺伝子、それを発現している細胞(=つまり低温感受する神経細胞)を同定した。続いて筆者らは高温を感受する触角のニューロンを同定した。これらの低温および高温を感受する触角上の感覚受容神経細胞は、それぞれ脳の近傍ながら異なる領域(具体的にはproximal antennal protocerebrum内)へと神経投射することが明らかとなった。これらの感覚受容細胞の働きを抑制すると、それぞれの温度に対する行動パターンに異常が生じた。これらのことから、低温と高温についてはそれぞれ特有の細胞集団が機能することにより低温、高温という別の温度刺激に対しての行動パターンを規定していることが明らかとなった。それに加えて、2つの温度情報がどのように脳へと伝えられ、処理されているのかについても明らかにした。

細胞骨格の極性が局所的な心臓前駆細胞の誘導を調節する

Nat Cell Biol. 2011 Jul 24;13(8):952-7.

細胞は複雑で動的な環境の中で適切な運命決定を行う必要がある。 最近のIn vitroでの研究では、 @ 細胞骨格が環境からのシグナルを統合する場として働くこと A 外部からのシグナルが細胞骨格のダイナミクスを制御し、逆に細胞骨格はシグナル伝達経路を調節すること が示された。 しかし、胚の細胞運命決定の過程において細胞骨格とシグナル伝達を結ぶin vivoでの研究はまだ十分に行われていない。 今回の研究では、原始的な脊索動物であるカタユウレイボヤの心臓運命の分化誘導に注目した。その結果、非対称な運命決定においては、単純な誘導シグナルへの暴露の差異ではなく、心臓前駆細胞において形成される『極性化した侵襲的な突起』が重要な役割を果たすことを発見した。この突起形成には細胞骨格制御因子CDC42が関わっており、CDC42の活性を阻害することで心臓前駆細胞の運命決定を変更することができた。さらに、突起形成を回復させることで非対称な運命決定を回復させることもできた。これらの結果から、細胞内シグナル伝達経路と細胞骨格の相互作用は胚発生過程において重要な役割を持ち、この相互作用は誘導因子の濃度勾配の粗さを細胞骨格のダイナミクスの制御によって調節してより厳密なものにする役割をもつ可能性が示唆された。

11月18日

β-カテニンは細胞間接着から細胞融合への移行を制御する分子スイッチである

 SCIENTIFIC REPORTS

受精時に精子と卵の細胞膜は接着および融合するが、細胞間接着を制御する因子についてはほとんど知られていない。本論文では精子と卵との細胞間接着におけるbカテニンの役割を研究し た。生化学解析によって、精子と卵の両生殖細胞それぞれでEカドヘリンとbカテニンが複合体を形成することが明らかになった。bカテニン欠損卵と精子を受精させると、精子と卵との細胞 間接着は阻害される。さらに、精子と卵との細胞間接着の完了後に、精子頭部や、卵の精子接着部位におけるbカテニンの発現が減少した。ユビキチン活性化酵素1の阻害剤であるUBE1-41は bカテニンの分解を阻害する。 UBE1-41で処理すると、野生型卵と精子との融合能は低下した(bカテニン欠損卵では影響なし)。これらの結果より、bカテニンは受精時に細胞間接着のみな らず膜融合への移行にも関与していることが示される。

カタユウレイボヤBrachyury 遺伝子の新たな調節ネットワークの可能性

Dyn. 2011 Jul;240(7):1793-805. doi: 10.1002/dvdy.22656. Epub 2011 May 18.

細胞は複雑で動的な環境の中で適切な運命決定を行う必要がある。 脊索は脊索動物特有の構造である。しかし、この構造の発生を支配している転写因子の全体像はあまり分かっていない。そこで筆者ら は、胚発生のさまざまなステージでの遺伝子発現を調べ、カタユウレイボヤの脊索で発現するいくつかの転写因子をコードする遺伝子 をみつけた。これら転写因子のうち、Fos-a、NFAT5、AFF 、Klf15の 4種はこれまでの研究 で脊索との関連が分かっていなかったが、今回その関係が明らかになった。また、Spalt-like-a、Lmx-like、STAT5/6-bの3種については、脊索におけるそ の発現が、進化的に保存されていることを示した。筆者らは、全ての脊索動物において脊索の発生に必要な転写因子 Brachyuryと、今回明かにしたこれらの遺伝子間の上下関係を検証し、ホヤのBrachyuryがこれらの遺伝子全て ではないが、ほとんどの発現を制御することを発見した。これらの結果は、ホヤ(と、おそらく他の脊索動物)において、脊索の 形成の根底にある遺伝的な制御プログラムを解明したことになる。

12月9日

ショウジョウバエ Dicer-1 による pre-miRNA 構造の認識機構

 Nature Structural & Molecular Biology, 18, 1153-1158 (2011)

microRNA (miRNA) や small interfering RNA (siRNA) などの small RNA は、 複数のタンパク質と複合体を形成し、mRNA の不安定化や翻訳抑制、切断 などを行うことが知られている。miRNAとsiRNAの生合成にはDicerと呼ばれる RNaseIIIファミリータンパク質が働いており、ショウジョウバエには2つのDicerが 存在する。Dicer-1はmiRNA前駆体(pre-miRNA)からの二本鎖miRNAの切断に、 Dicer-2は長い二本鎖RNAからの二本鎖siRNAの生産に、それぞれ特異的に 働いている。Dicer-2が長い二本鎖RNAを特異的に基質とする機構は近年 明らかになってきたが、Dicer-1の基質認識機構は未解明であった。 本論文ではこのDicer-1がpre-miRNAを特異的に認識する仕組みを明らかに した。Dicer-1はN末端側のヘリカーゼドメインを介してpre-miRNAの一本鎖 ヘアピンループ構造を認識し、ループのサイズおよびループから3'突出末端 構造までの距離をチェックしていた。この機構によって、ショウジョウバエ Dicer-1は厳密にpre-miRNAの構造を調べることが可能になっている。

カタユウレイボヤの幼生発生におけるHox遺伝子の限られた機能

Development 137, 1505-1513 (2010) doi:10.1242/dev.046938

細胞は複雑で動的な環境の中で適切な運命決定を行う必要がある。 Hox 遺伝子はホメオドメインを持つ転写因子で、脊椎動物において、前後軸に沿ったパターン形成に関わる遺伝子である。さらに進化的にもボディプランを確立し、形態の多様化に重要な役割を果たしていることが知られている。しかし線虫は昆虫を除いた無脊椎動物でのHox遺伝子の機能についてはよくわかっていない。 今回、筆者らは無脊椎動物におけるHox遺伝子のパターン形成に関わる機能を調べるため、カタユウレイボヤのHox遺伝子に関して、モルフォリノオリゴを用いたknock down実験を行った。7つのHox遺伝子のknock downを行ったところ、Ci-Hox12は、Ci-fgf8/17/18及びCi-Wnt5を介した尾の成長に重要な役割をもち、またCi-Hox10 はGABA作動性ニューロンの形成に関わることが明らかとなった。しかしCi-Hox1,2,3,4,5に関しては、幼生の発生に影響が見られなかった。これらの結果より、カタユウレイボヤの幼生発生においてHox遺伝子が果たす機能は限られていて、このことが単純な体制をもつホヤの急速な胚発生に関係していることが示唆された

1月13日

ローヤラクチンがミツバチを女王に分化させる

 Nature 473, 478-483. 26 May 2011

西洋蜜蜂のメスはクイーンとワーカーという二つのカーストを有している。このような2形性は遺伝子の違いによるものではなく、ロイヤルゼリーの摂取の有無によって決定している。しかし、どのロイヤルゼリーがどのようにカーストの分化を制御しているのかは長い間謎のままであった。この論文で筆者はロイヤルゼリーに含まれるタンパク質の一つである57-kDaタンパク質(ロイヤラクチン)が西洋蜜蜂の幼虫をクイーンに誘導する物質であることを示した。ロイヤラクチンは体のサイズを大きくし、卵巣を発達させ、成長にかかる速度を短くする機能がある。驚くべきことに、これらと類似した結果がショウジョウバエに与えた場合でも見られる。ロイヤラクチンの機構的な研究により、ロイヤラクチンは体のサイズを大きくすることに関与するp70 S6キナーゼを活性化させる。そして成長時間の減少に関与するマイトジェン活性化タンパク質キナーゼの活性を増加させる。さらに卵巣の発達に必須である幼生ホルモンの滴定量を増加させる。西洋蜜蜂とショウジョウバエの脂肪体での表皮性成長因子受容体(Egfr)の発現を抑制したところ、ロイヤラクチンによって誘導される表現型が見られなくったことから、ロイヤラクチンの働きはEgfrによって仲介されていることがわかった。これらの結果から、ロイヤルゼリーに含まれる特定の因子であるロイヤラクチンはEgfrを仲介したシグナル経路によってクイーンへの分化を誘導していることがわかった。

2月3日

遺伝子発現の変動性は不完全浸透度の基盤となる

 Nature. 2010 Feb 18;463(7283):913-8.

個体間の表現型の差異は多くの場合、遺伝子や環境のばらつきに起因すると考えられている。しかし、遺伝的に同一な個体が均一な環境におかれても異なる表現型を示すことがあり、これは遺伝子発現のばらつきのような発生過程のランダム性も表現型の多様性を生み出しうるということを示唆している。本研究では、多細胞生物における遺伝子発現のばらつきの重要性を検証するために野生型の細胞運命が不変で単純な転写ネットワークによって制御されている線虫の腸の運命決定に注目した。この転写ネットワークの要素となっている遺伝子が変異した場合、腸が分化する/しないの2タイプの表現型があらわれる。今回、腸分化を制御する転写ネットワークを構成する各遺伝子の転写産物数をカウントすることによって、変異体では重複した機能をもつ遺伝子の発現のばらつきが増大し、マスターコントロール遺伝子の発現がON/OFFの閾値を下回る確率が増大していることが分かった。本研究により、発生を制御する遺伝子ネットワークを構成する遺伝子への変異は、野生型では緩衝されている遺伝子発現の確率的なばらつきをもたらし、表現型のばらつきを増大させることが示された。

カタユウレイボヤの中枢神経系再生のモデル動物としての利用

PLOS One, 2, e4448

中枢神経系の再生に関する研究に対してこれまで研究がなされておらず、かつ実験しやすいモデル生物を導入し解析することは、新たな分子機構の発見につながるものである。本研究ではカタユウレイボヤに着目したが、それはカタユウレイボヤが成体の中枢神経系を完全に除去してもそれを再生する能力を備えているという大きな特徴を備えた脊索動物であるためである。本研究ではカタユウレイボヤの中枢神経系の再生過程のステップの進行状況を詳細に記載した。おおまかに再生ステップは4つの段階に分けられ、中枢神経系の機能も段階的に回復していくことが判明した。さらに中枢神経系で蛍光タンパク質を発現させるトランスジェニック系統を利用して再生の際の細胞レベルでの変化を追い、切断面近くの神経繊維が太くなっていき中枢神経系の原器となる様子を観察した。この領域に新しい神経細胞が形成されている可能性が高い。再生に係る時間は個体の大きさと負の相関関係にあった。

2月17日

Ars2はSox2を直接転写活性化することによって神経幹細胞の性質を維持する

 Nature. 2011 Dec 25;481(7380):195-8.

幹細胞の性質と神経形成能をもつ特殊化したアストログリア細胞のサブ セットのneural stem cell(NSCs)の性質と自己複製を制御する転写のネットワークに関する基礎的な疑問は、解明されていない。そこで筆者らは、ジンク フィンガータンパク質Ars2(arsenite-resistance protein2、Srrtとしても知られている)がマウスの成体のsubventricular zone(SVZ)のNSCsで発現していて、選択的Ars2ノッ クダウンは、成体のSVZ内のGFAP(glial fibrillary acidic protein)が発現している細胞で、NSCsの数と神経形成能を減少させていることを報告した。これらの表現型はhGFAP-cre::Ars2 fl/flコンディショナルノックアウトマウスの出生後のSVZでさらに重度にみられた。ex vivo assayでは、Ars2がSox2の発現をポジティブに制御することによって、NSCsの自己複製を促進するのに必要かつ十分であることを示 した。植物と動物のArs2のオーソログは、microRNA生合成でそれらの保存された役割が知られているが、筆者らは、Drosha、Dicer1ノック アウトNSCsで、Ars2が予想外に自己複製を促進する能力を保持していることを確認した。かわりに、クロマチン免疫沈降法で、Ars2がNSCsのSox2の6キロベースのエンハンサー内の特定の領域に結合することを明らかにし た。この結合はRNA非依存的で、その領域はArs2に媒介されたSox2の 活性化に必要である。筆者らはゲルシフト解析を使い、Ars2が結合するSox2の領域を絞り込み、それが特異的な保存されたDNA配列であることを示した。重要な下流エフェクターとしてのSox2の重要性は、自己複製能と多分化能を欠損したArs2ノックアウトNSCsを 回復させるそのSox2の能力によって示された。筆者らの発見は、多分化因子Sox2の直接的な活性化によってNSCsを多分化性の前駆体状態に制御する新しい転写因子としてのArs2について明らかにした。

母性因子GATAとEts、b-catenin-TCF転写因子らのコンビネーションによってホヤの初期外胚葉形成が誘導される

Development. 2007 Nov;134(22):4023-32.

脊索動物の初期発生における母性因子の役割についてはいまだ断片的なことしか 分かっていない。分子カスケードについては中内胚葉については分かっ ている が、表皮や神経となる外胚葉については分かっていることが少ない。我々のシス 解析により母性転写因子であるCi-GATAaの活性が外胚葉 ネットワークの最初に 位置することが明らかとなった。Ci-GATAaは胚全体に存在するが、その活性は 徐々に植物極側において内在性のb- cateninにより抑制される。したがって、動 物極側でのみ活性化したCi-GATAaにより二つの外胚葉遺伝子が活性化される。一 つはCi- fogで、8細胞期から発現が見られる。もう一つがCi-otxで、32細胞期か ら神経前駆細胞でのみ発現が見られる。二つの遺伝子の上流には共 にGATA結合 サイトが存在するが、Ci-otxではそれに加えEtsの結合サイトが存在し、このEts 結合サイトが神経前駆細胞でのみ活性因子 として働くことでCi-otxの発現パ ターンを形成している。我々はこのような母性因子による外胚葉遺伝子の他の遺 伝子との組み合わせによる発現 制御を同定した。

2月24日

宿主の腸とバクテリアの相互作用における、可変領域含有キチン結合タンパク質VCBPの役割

 Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Oct 4;108(40):16747-52. Epub 2011 Sep 19.

分子の多くの異なるクラスが自然免疫および適応免疫に作用するための構造的なマトリクスとして機能する。適応免疫のもっとも詳細に調べられているメディエーターは有顎脊椎動物において発見されたイムノグロブリンとT細胞抗原受容体である。これら2つの分子の、固有の受容体特異性はともに、可変性の構造ドメインV領域における体細胞変異による。V領域を含んだキチン結合タンパク質(VCBPs)はキチン結合ドメインだけでなく、2つのタンデムIg Vドメインからも構成されている。カタユウレイボヤにおいてVCBPsは4つの遺伝子座にコードされており(VCBPA-VCBPD)、腸粘膜固有層と循環血液に存在する顆粒状のアメーバ様細胞と同様に、胃腸の異なる上皮細胞にも発現している。VCBPsは腸管内腔に分泌され、細菌表面へと直接的に結合することが免疫電顕の解析により検出できる。イン・ビトロにおいて、タンデムVドメインのみから構成されるコンストラクトと同様に、アフィニティ精製したネイティブなVCBP-Cおよび組換体のVCBP-Cは顆粒状のアメーバ様細胞による細菌のファゴサイトーシスを促進する。VCBPの発現や機能の様々な観点より、宿主生物の免疫システムと腸内の細菌叢とのコンタクトの中心となるキー・エレメントの初期起源が示唆される。

3月16日

マウスES細胞を用いた眼杯の3次元形成

 Nature. 2011 Apr 7;472(7341):51-6.

器官形成には多様な種類の細胞がお互いに協調し合うことが重要で、細胞同士の協調によって発生中の組織が形作られていくが知られている。しかしながら多様な種類の細胞がどのような過程で協調し合って器官を形作るのかは未だに解明できていない点が多い。筆者らは、三次元細胞培養系を開発し、マウスES細胞から眼杯様の層構造を自律的に分化させることに成功した。さらに3D培養を続けると、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層、視細胞層といった実際の網膜同様の明瞭な層構造ができ、新生マウスの目に見られるような完全な層構造に限りなく近い構造を持つ網膜組織が形成された。

カタユウレイボヤ精子のカルシウム増加により引き起こされる自家不和合性反応
Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Feb 22.
カタユウレイボヤ精子のカルシウム増加により引き起こされる自家不和合性反応本論文ではカタユウレイボヤの自己非自己認識反応における、精子の行動および細胞内のCa2+濃度([Ca2+]i)を調べた。精子は自己の卵の卵黄膜への付着後5分以内に、運動性が顕著に減少していた。非自己卵の卵黄膜ではこのような減少は見られなかった。この精子運動性の減少はlow-Ca2+海水で抑制された。ハイスピードビデオを用いた解析により、自己卵の卵黄膜に結合した精子は5分以内に卵黄膜から離れるか、運動を止めることが明らかになった。s-Themis-B(精子側の自家不和合性候補因子でポリシスチン1様タンパク質)はC末端にカチオンチャネルドメインがあることから、リアルタイムイメージングによる[Ca2+]iのモニタリングを行った。精子が自己の卵黄膜に結合すると、[Ca2+]iが迅速に増加し、精子の頭部と鞭毛領域における[Ca2+]iは高いまま維持されることが明らかとなった。この[Ca2+]iの増加はlow-Ca2+ 海水によって抑制された。
これらの結果は、精子の自己認識シグナルが、自家不和合反応を引き起こす[Ca2+]iの増加やCa2+流入の引き金になっていることを示している。


生理活性を示すBMPリガンドグナル特性は
TGF-betaやBMP ligandはprotoconvertaseにより分解されて活性のあるリガンドとな
る。従来は100-140アミノ酸の長さに分解されるとされてきたが、今回Drosophilaを
用いた研究から、これまでの報告よりも長い328アミノ酸の分解産物が形成されるこ
とが判明した。この分解産物Gbb38(Gbb=Drosophila BMP5/6/7)は従来の分解産物
Gbb15よりも強い活性を有し、またより遠くまで拡散して働くことが判明した。Gbb15
とGbb38の割合は組織毎に異なり、組織特異的なプロセシングを受けている可能性が
ある。人のhomologにもGbb38に相当する切断部位は存在し、その部位の変異はタンパ
ク質機能の異常=変異体の原因となっていることが分かってきており、その重要さが
保存されている。

 

 

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