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トップページ > 研究紹介 > ホヤの変態メカニズム4

変態を開始させる分子

動物の変態は、ホルモンや神経伝達物質といった液性因子が神経や内分泌器官から放出され、それらを受け取った組織が変化を起こすことによって開始されることは、古くから昆虫や両生類(カエルなど)を使った研究によって明らかにされてきました。これらの動物では、幼生・幼虫の生育状態に従って適切な時期にホルモンなどが分泌され、変態が促されます。ではホヤの変態もまた、このような液性因子によって開始されるのでしょうか?これまでに書いてきたように、ホヤの変態は固着することによって開始されます。単にふ化後の時間経過だけで変態する時期が決められるのではありません。このような特異性をもつホヤの変態を誘導する仕組みを調べ、他の動物の変態と比較することは、「変態とは何か」を知る上で重要です。

我々はホヤの変態を誘導する因子の同定を進めています。そのなかで、性腺刺激ホルモン放出ホルモン (ゴナドトロピン放出ホルモン・GnRH)に着目しました。GnRHはその名の通り、脊椎動物の性成熟に必須の重要なホルモンですが、ホヤを含め脊椎動物でも、性成熟が生じるよりもはるか前の段階から発現が開始されます。カタユウレイボヤでは、孵化する前から発現していますがホヤの幼生は性的に未成熟であり、GnRHは性成熟以外の機能を持っていると予想されました。このため、GnRHがホヤの大人になるため、つまり変態に必要なのではないかと予想し、それが裏付けられました(Kamiya et al., Developmental Dynamics 243, 1524-1535, 2014)。

GnRHによって変態が誘導された個体

具体的には、GnRHを変態していないホヤ幼生に投与すると、変態が誘導され、固着などをしなくても幼若体になります。また、GnRHには何種類かありますが、その一部のタイプには細胞増殖を抑制する働きがあることも分かりました。付着突起に成体組織成長の抑制機能があることとの関連が予想される機能です。

動物変態の保存性の解明に向けて
変態も性成熟も全て、動物が成体になるために通過しなくてはならない現象です。動物は受精卵から発生を経て体を構築しますが、その際に作られるものはほぼ全ての動物で幼体とよばれるもので、これらは成体とは異なる形態や機能をもちます。幼体としてしばらく過ごした後、変態や性成熟を経て成体へと変化します。初期発生が一旦終了した際に、直接成体になる動物は極めて限られています。我々哺乳類は一般的に変態しませんが、それでも幼体の時期から成体になる過程で様々な体の変化が生じます。つまり、動物は共通して2段階の生育過程を経て成体になります。

これまで述べてきたように、GnRHは脊椎動物の「性成熟」に必須な因子ですが、ホヤの変態においてGnRHが使われていること、および性成熟と変態は共に動物の成体化に関するイベントであることを鑑みると、変態も性成熟も基本的には同一の「大人になる」ためのイベントであり、その主要制御因子がGnRHである、ということが言えるかもしれません。動物が変態する仕組みをホヤの研究を通じて他の動物と比較して共通点を探ることから、動物の変態や成熟にどのような保存性があるのか、果たしてこれらは共通のイベントなのかどうかなど、「動物が大人になる仕組み」の根幹を明らかにしたいと考えています。

参考文献
Kamiya et al., Nonreproductive role of gonadotropin-releasing hormone in the control of ascidian metamorphosis. Developmental Dynamics 243, 1524-1535


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